・テーラーメイドが「上級者向け飛び系アイアン」の新モデル「P790」を発表

・新素材の充填剤「スピードフォームエアー」の採用や見た目の改良などがおこなわれた

・小売価格は7本セットで1,399ドル


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プレイヤー、つまりゴルファーにとって、今の世の中は本当にままならない。ゴルフ場の予約はなかなか取れないし、新製品の入手はさらに厳しく、特にそれがカスタムの場合はなおさらだ。どこのメーカーに聞いてもヘッドの在庫はあるだろう。しかしシャフトの在庫はないだろうし、グリップだって不足している。でも、「3分の2の確率」なら悪くはないんじゃないか?

そうじゃないか?

最近では、ゴルフ業界全体で入荷待ちや遅延、完全に入手可不能な状態が当たり前になっている。うまく事が運んだとしても、ゴルファーはフィッティングを受け、注文し、祈りながら待ち......そして、さらに待つことになる。

その責任は貴方にもある。「MCC Plus4」を注文する前にもっと頭を働かせるべきだったね。見事に最後尾。あなたに分けてあげられる“スープ”はないってことだ。

メーカーの場合は少々異なる問題に直面している。売るものがないとき、何を売るのか?

テーラーメイドの場合、ないもの…少なくとも今日まで存在しなかったものを差し出す。

私が技術者だった頃はそれを「ベイパーウェア(いつ発売されるかは霧の中)」と呼んでいたものだが。


P790アイアン - ベイパーウェアから現実へ

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テーラーメイドは、2019年版の「P790」を売り切った後、2021年モデルを情報解禁前に詳細情報不明のまま発表するという異例の決断を下した。情報といえば黒塗り画像とスペックシートのみ。たったそれだけ。

具体的は情報が何もない状況で、新しい「P790」に賭けざるを得ないゴルファーに必要だったのは、「クレジットカード」と「テーラーメイドへの信頼」のみ。実際に自分が何を買おうとしているのか?皆目わからないというのに。

テーラーメイドを信じること。

以前、帽子にそんなようなことが書かれていた気もする。ともかく、他に選択肢はなかったのだ。

もちろん、目隠しをされたまま、「つるし」で買ったらどうかと勧める気は一切ない。誰にでも合うゴルフ用品などあるはずがないからだ。しかし、もしアイアン、特に「上級者向け飛び系アイアン」のいずれかのモデルに賭けるというなら、テーラーメイド「P790」にはそれなりの勝算がある。


テーラーメイド「P790」アイアン – 業界基準の確立

3世代目を迎えた「P790」は、「上級者向け飛び系カテゴリー」の“護符”的存在だ。このカテゴリーが明確に定義されていなかった時代においても、初代(2017年)の「P790」とその「スピードフォーム」を注入したキャビティが業界基準となった。

そこからテーラーメイドは脇目も振らずに作り続けた。つまり、「P790」を中心に「Pシリーズ」全体を構築していった。

では、「P790」の成功の背景には何があるのだろうか?

テーラーメイドは間違いなく「スピードフォーム」による恩恵を挙げるだろう。競合他社の中にはその効果を疑う者もいるが(ある業界関係者はこれを「サウンドフォーム」と呼んでいる)、その機能が消費者に響いたのだから、究極のベンチマークと言っていいだろう。「P790」の成功は、性能もさることながら、すっきりとした外観と、このアイアンの汎用性の高さにもあると私は考えている。


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異色のユーティリティアイアン

美しさは主観的なものであり、それについては後述するが、最も説得力があるのはテーラーメイドのフィッティングデータだろう。

「P790」アイアン販売における一番のターゲットはだいたい皆の予想通り。このアイアンはハンディキャップ一桁後半から二桁前半のゴルファーに非常に人気があるが、実際に「P790」が合うとされたゴルファーのハンデは、「+4〜25」までと幅広い。

まるで万人向け。そうなると「P790」はある意味の“ユーティリティアイアン”ということになる。

もちろん、実物を見ずに(そしてフィッティングもせずに)何かを注文することはお勧めできないが、少なくとも“長蛇の列”になる前にいくつかの詳細を説明することはできる。


テーラーメイド「P790」アイアン – 変わったことは?

テーラーメイドが「P790」を進化させようとして直面していることは、タイトリストが「T100」を改良しようとして直面していることとほぼ同じだ。

ゴルファーは今使っているもの(現行モデル)が気に入っている。フィッターはよりその傾向が強い。技術革新や改良はさておき、今ある良い点を台無しにしなければもう半分は勝ったようなものだ。

「P790」アイアンのルックスはほぼ確実に良い方向に進化しているが、最も重要な変更点は内部にある。


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中空 vs 充填

以前にも述べたが、「中空構造アイアン」の設計には一般的に2つの方法論がある。タイトリストとピン、ミズノは、“空気に勝る充填物はない”と考えている。

フェースの後ろ側に何かがあるとフェースの動きが鈍くなり、誰もがより多くの初速を生み出そうとしている中で、その手法はあまり効果がないという主張だ。

もうひとつの方法は、PXGとテーラーメイドに、またキャロウェイのデザインにもある程度は見受けられる。彼らの主張は、「発泡体」や各種「ポリマー粘着剤」、「マイクロスフィア」を使用することで、「打音」と「打感」を向上させ、充填剤なしの場合よりも薄肉フェースを支えることができるというものだ。

要するに、アイアンの「初速を出す方法」は様々なのでひとつの完璧な解決法はないということ。ただ、どの「素材(または素材がないこと)」が有効かは、他の設計考察によって異なるに違いない。はっきり言って、どちらのアプローチも有効なのだ。





「スピードフォームエアー」

そんなわけで、テーラーメイドの「P790」アイアンの新しい充填材が『スピードフォームエアー』と呼ばれていることを知ったときは思わず笑ってしまった。両方の長所を兼ね備えている、とでも言いたいのだろうか?

『スピードフォームエアー』の重要な点は、従来の「スピードフォーム」よりも軽くて柔らかいということだ。また、『スピードフォームエアー』は色が赤になった。従来の「スピードフォーム」はオレンジだった。

数字でいうと『スピードフォームエアー』は、従来の「スピードフォーム」に比べて69%も密度が低くなっている。

ここでの目的は、「打感」を維持し(発泡剤は打感に重要な役割を果たす)、多少なりとも重量を減らし、おそらく初速を上げるためにフェースをたわませることだ。

軽量化は『スピードフォームエアー』によってのみ成されたものではない。テーラーメイドは、「薄肉構造」と呼ばれる方法でアイアンの背面上部を1ミリ(1.6ミリから)に削り、(『スピードフォームエアー』による3.5~4.5グラムの削減に加えて)15グラムの重量を確保した。

テーラーメイドがその余剰重量をどうしたのか…。

(頼む、タングステンじゃないと言ってくれ…)


タングステンウエイト(すまない...)

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さて、ここからが本題。きっと貴方は私よりも「タングステン」への関心は薄いと思う。つまり、ほとんど関心がないだろう。しかしこの「タングステン」の話は、必要不可欠とされる性能向上がどこから来るのかを説明するために重要なのだ。

2021 年の「P790」アイアンの内部には、およそ31グラムの「タングステン」が使用されている。ちなみに前モデルは13.5グラムだった。これによりテーラーメイドがゴルフ業界における「タングステン使用量No.1」を主張できるまでには至らないが、割合で考えると先代からの大きな飛躍となる。

「タングステンウエイト」はトウ側の低い位置に配置されている。ここに配置したのには2つの目的がある。1つ目は、2019年モデルと比較して、より「高い打ち出し(および低スピン)」を実現するための低重心化。

また、重心位置をトゥ側にすることで、テーラーメイドの『インバーテッドコーンテクノロジー』や、1.5mm(最薄部)の「4140鍛造L字型フェース」など、「P790」の他の設計要素と連動して、「スイートエリアの拡大」をはかるためだ。


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「インテリジェントスイートスポット」設計

以前にも似たような話を聞いたことがあるだろう。ゴルファーのパターンを見ると、「ハイトゥ」か「ローヒール」のミスが多いことがわかる。

それを踏まえて、テーラーメイドの「インテリジェントスイートスポット」設計は、単に「スイートスポット」を大きくするだけでなく、ゴルファーの助けになる方向にスイートスポットを広げることを目標とした。ハイトゥならば多少はスピードを保てそうだ。“ハイヒール”ではそうはいかないが。

テーラーメイドはスイートスポットのサイズを30%増加させたとしている。参考までに、テーラーメイドでは、スイートスポットを、フェースのCORが「0.800以上」の部分と定義している。

トップラインとソールの幅、そしてオフセットについては以前と同様だ。考え方としては、既存価値で十分に機能しており、もしユーザーが「P790」が実現するものとは違う何かを探しているのであれば、テーラーメイドの「Pシリーズ」には他のチョイスもあるので、そちらを試してみるのもいいだろう。

2021年のテーラーメイド「P790」アイアンの性能をまとめるとこんな感じになる。より増大した初速、より安定した初速性能、より高い打ち出し角、少し低いスピン量、そしてそれらの結実が「飛距離増」だ。


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洗練された美しさ

2021年版「P790」の注目点の最後のピースは洗練された「形状」についてだ。2017年と2019年のモデルはかなり似ていたが、2021年モデルはそれまでの世代とは明らかに違うものとなった。

テーラーメイド内部では、2017年モデルを買った人はおそらく2019年モデルには手を出さなかっただろうが、そこから5年後の2021年モデルならば買い替えるだろうという考えがあったようだ。

その点を念頭に置き、テーラーメイドはこのアイアンが第3の「P790」ではなく、全く新しい「P790」であることを伝えようとしている。

テーラーメイドのマット・ボーヴィー氏は「パールクローム仕上げ」を含む外観を「ミニマルでありながら現代的」と表現し、「Pシリーズ」は市場で最も見栄えのするアイアンシリーズであるとまで言い切っている。

ミズノやタイトリストについては理にかなった議論ができると思うが、テーラーメイドもそこに加わるべき存在であることに異論を唱える人はあまりいないだろうし、何よりも「RSi」の時代からこの会社がどれだけ進歩したかを表している。ベストか?そうかもしれない。よだれが出るほど格好いいか?それは間違いない。


テーラーメイド「P790」を実際に試してみて

先日、テーラーメイドのイベントで新しい「P790」を試す機会があった。特に馴染みのあるアイアンではなかったが、練習場で打つのに苦労はしなかったし、打感も抜群だ。純粋な鍛造アイアンほどではないが、まったく申し分のない打感だった。

あら探しをするなら、トップラインが自分の好みからすると少しすっきりしないが、パフォーマンスが証明されれば気にならなくなる程度の違和感だ。

参加していたあるメディア関係者は8番アイアンを絶賛し、別のメディア関係者は3日間イベントの間、新しい「P790」を使い続け、最終的には返却しないことに決めた。

4人のPGAツアープロが出演するテーラーメイドの「straight in the bag(そのままお持ち帰り)」のCMに彼が一般の報道関係者として登場するかどうかが楽しみだ。いずれにしても彼にとっては買い替え時期ではあった。


「P790」アイアンのスペック

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前述の通り、「P790」の主要スペックに変更はない。ピッチングウェッジを45度に、4番アイアンを20度以上(21度)にしているのも変わらない。「上級者向け飛び系アイアン」であっても、飛距離重視に走りすぎないことをたいへん喜ばしく思う。最終的にはその方が番手の長短にかかわらずゴルファーにとって使い勝手がよくなるはずからだ。

しかし、ドライバー同様、アイアンのロフトに関しても万人に適したスペックは存在しないという認識が広まってきた。そのため、テーラーメイドのフィッティングカートには「P790」の様々なロフトオプションが用意されており、フィッターが各ゴルファーに適したロフト設定を行えるようになっている。

「P790」のカスタムフィッティングでは、必要な分だけロフトを立てることができる。

番手ごとにいろいろ組み合わせて使いたい場合は、テーラーメイドの「Pシリーズコンボガイド」を見れば、何をどう組み合わせても適切なロフト(と番手間のギャップ)を選択できる。


テーラーメイド「P790」純正シャフトとグリップ

テーラーメイドは、純正シャフトに対して賢明なアプローチをとっている。今回は、「DG 105(S)」と「DG 95(R)」を純正シャフトとして採用。これまでの純正シャフトよりも軽い選択肢としている。

考え方としては、「(軽量の)純正品」を購入する人は今後、より向上心のあるプレーヤーになっていく傾向があるユーザーであり、つまり行く行くは“自分のスキル以上のもの(カスタム品)“に手を伸ばす可能性のあるユーザーであるということだ。

はっきり言うと”自分が思っているほど上手くない人“という意味だが、そのような人には、ボールを空中に飛ばすのに役立つシャフトを使い、「P790」の性能をより多く引き出すことが理にかなっている。

いずれにしても、フィッティングを受けようと思っている人にとっては純正シャフトはあまり重要ではない。テーラーメイドの「Any Shaft, Any Head(シャフトもヘッドも選び放題)」プログラムを使えば「P790」に好みのシャフトを挿すことができる(テーラーメイドに在庫があるものならば)。

カーボンシャフトの純正オプションは、三菱「MMT」のA(55)、R(65)、S(75)となる。繰り返しになるが、ターゲットユーザーがボールを空中に飛ばし、少しでもゲームを楽しめるようにすることが目的だ。

純正グリップはゴルフプライドの「Z-Grip(+2)」。

テーラーメイド「P790」アイアンは、3番〜PW、GWに対応している。7本セットの小売価格は1,299ドル(アイアン1本あたり185ドル)だ。


テーラーメイド「P790 UDI」

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簡潔に説明できるストーリーならお手のもの。テーラーメイドの「P790 UDI」についてちょっとした説明をしておこう。

「P790 UDI」の技術面はアイアンと同じだ。「スピードフォームエアー」、「インテリジェントスイートスポット」設計、「パールクローム仕上げ」などのテクノロジーが「UDI」にも採用されている。

ただし注意が必要だ。「UDI」は、名前の由来となったアイアンと同じように幅広いターゲット層に対応するものではない。「P790 UDI」は、「低・中弾道、低スピン」という特性から、ヘッドスピードの速い、ハンデ5以下の上級者向けであるとボーヴィー氏は言う。

もしあなたが、ターゲットに該当しないなら、「SIM UDI」か「SIM UHI」、あるいはテーラーメイドの「レスキュー」のいずれかを選ぶのが良いだろう。このアドバイスを無視して間違った決断を下すのは自由だが、何はともあれ私は自分の役割を果たした。


テーラーメイド「P790 UDI」のスペック

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テーラーメイド「P790 UDI」は、右利き用の2U(17度)のみの販売。純正シャフトはProject X「HZRDUS Smoke Black RDX(プロジェクトXハザーダス スモークブラック RDX)」の90Sと100Xとなる。

純正グリップはゴルフプライドの「Z-Grip(+2)」。

小売価格は249ドルだ。

テーラーメイドの「P790」アイアンと「P790 UDI」は現在予約受付中。本格的な発売は9月3日からとなっている。(※日本発売は9月4日)