「LIVゴルフ」が、まさかの方向転換。
これまで「54ホールこそが新時代」と豪語してきた「LIV」が、PGAツアーと同じ72ホール制へと舵を切った。
つまり──「LIV(54)」が「LXXII(72)」になった、というわけだ。
名前の意味すら超えていくとは、なかなか攻めた判断だ。世界のトップリーグ──『IPL(Indian Premier League、クリケット、インド)』、『EPL(English Premier League、サッカー、イギリス)』、『NBA(National Basketball Association、バスケットボール、アメリカ+カナダ)』、『MLB(Major League Baseball、野球、アメリカ+カナダ)』、『NFL(National Football League、アメリカンフットボール、アメリカ)』──は常に革新を続けている。
「LIV」も“新興リーグ”として、その仲間入りを狙っているようだ──LIVゴルフリーグCEO スコット・オニール“LIV=54”というアイデンティティを掲げてきたリーグが、いまやPGAツアーに歩み寄るような姿勢を見せている。
この変化が、次のステージへの布石となるのか──その動向から目が離せない。
世界ゴルフランキング(OWGR)ポイントを求めて── LIVゴルフの現実路線
今回の72ホール制導入は、「LIVゴルフ」が「世界ゴルフランキング(OWGR)」への“仲間入り”を果たすための、これまでで最も現実的なアプローチといえる。
現状では、「LIV」の大会でどれだけ好成績を収めても「OWGRポイント」は一切付与されない。
LIVがこの制度への参加を申請したのは2023年10月だったが、当時OWGRはその申請を却下。 そして今年7月、「LIV」は再び申請を出している。却下の理由は明確だ。
「LIV」の大会運営が「OWGR」の定める基準と一致していなかった──つまり、いまの形では“正式なツアー”として認められないという判断だった。「OWGR」の基準には、72ホール制の大会、36ホール時点での予選カット、オープン予選の導入、そして成績次第では選手が出場資格を失う仕組みが含まれている。
つまり、“誰でも参加できて、結果次第では落ちる”という公平性が求められているわけだ。「LIV」がその条件に近づこうとしているのは、まさにランキング復帰への“現実的な一手”といえる。「OWGRポイント」が付かない現状では、「LIV」の中堅クラスの選手たちはメジャー出場のチャンスを失い、あるいは挑戦する理由すら見失っている。
「クラッシャーズGC」(LIVゴルフの13チームの1つ)のキャプテン、ブライソン・デシャンボーはこう語る。
「世界のトッププレーヤーが同じ舞台で戦う姿を、誰もが望んでいる。特にメジャーでは、それがゴルフの本質だ。競技のためにも、前へ進む道をつくる必要がある」
そして最後に添えられたのは、“ジョン・ラームが書いたとは思えない”公式コメント。
彼のPRチームによれば、こうだ──。「これはリーグにとっても、選手にとっても“勝利”だ」
「LIVゴルフ」は選手のリーグだ。僕たちは生粋の競争者で、常に最高の舞台で腕を磨きたいと思っている。72ホール制への移行は、そのための“自然なステップ”だ。競争をより厳しくし、自分たちをさらに試す機会にもなる。
それに、昨シーズンの観客の増え方を見れば──ファンも、もっとそれを求めているということだ」
立派な言葉ではあるが、結局のところ“メジャーに出られなくなるのが怖い”のだ。
「PGAツアー」と「LIVゴルフ」は、いまだ交わる気配がない。両者の“和解”や“統合”に望みをかけるのは、もはや現実的ではないだろう。
つまり、プロゴルフ界の再統合による「OWGRポイント」獲得──そんなシナリオは、期待薄というわけだ。 さらに「LIV」は、ジョン・ラームとティレル・ハットンを迎えてから約2年。それ以降、目立った新戦力は加わっていない。時間の経過とともに、「OWGR」問題の痛みはじわじわと深くなっている。
結局のところ、「LIV」はこれまで見て見ぬふりをしてきた基準に、ようやく本気で取り組まざるを得なくなったということだ。「LIVゴルフ」、次の一手は?
72ホール制を採用したことで、「OWGR」の他の基準をすべて満たせるかはまだ不透明だが、少なくとも一歩は前に進んだ。
「LIV」は降格制度と出場枠の管理をこれまでより厳しくしている。ただし実際の入れ替えはごくわずか。
49位以下にならない限り出場資格を失うことはなく、生き馬の目を抜くPGAツアーと比べれば生ぬるいフィールドだ。一方で、「LIVプロモーションズ(1月開催)」では2名に出場権が与えられ、アジアンツアーのインターナショナルシリーズからも2名が昇格できる仕組みが整っている。「LIV」へとたどり着くルートは存在する。
そして「36ホールでのカット」問題も、いまや優先順位が下がっている。PGAツアーが少人数・ノーカット制へとシフトしており、2026年には9大会がノーカット形式になる予定だからだ。
皮肉にも、ここではツアー側が「LIV」に少し近づいたようにも見える。残る最大のハードルは、やはり「LIV」の“閉じた世界”そのものだ。最下位グループが数人入れ替わっても、その座組を埋めるのは結局、どこかで見た顔ばかり。
「LIV」で地位を守るのは、PGAツアーでカードを維持するのとはまるで別の話だ。正直に言えば──「LIV」では、たいして結果を残せなくても席は用意されている。 言い換えれば、「負けてもクビにならないリーグ」。これが、「OWGR」が首を縦に振らない最大の理由かもしれない。もうひとつ見逃せないのが、「LIV」の多くの選手が“自力でその座を勝ち取ったわけではない”という点だ。
ほとんどが“招待制”で集められた顔ぶれで、実力主義とは言いがたい。何しろ──アンソニー・キムですら招待を受けている。 もしそれで「OWGRポイント」が与えられるのなら、もはや“出場資格”とは何なのか。結局のところ、まだ“やるべき宿題”は残っている。とはいえ、今回の決断は「LIV」という存在をどう見るかで印象が変わる“リトマステスト”のようでもある。
これは、新たな才能を呼び込み、リーグを強化するための一手なのか。
それとも、勢いを得られないまま手を打たざるを得なかった苦肉の策なのか。
あなたは、どちらに見える?
(トップ写真:72ホール制への移行を発表したLIV GETTY IMAGES/Raj Mehta)




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