ゴルフファンのみんな、朗報だ。「スパイダーバース」に新たな仲間が加わった。これまでツアー専用だったプロトタイプ、「Spider ZT」パターがついに市販化された。
2025年のバレロ・テキサスオープンでブライアン・ハーマンが勝利をつかんだのもこの1本。そしてLPGAのユ・ヘランも、同じ「Spider ZT」で2025年ブラックデザート選手権を制している。
モデル名の「ZT」は、もちろん『ゼロトルク』の略。つまり“トルクゼロ”の意味だ。
このリリースにより、テーラーメイドは2025年の『ゼロトルク戦争』に正式参戦したことになる。
しかも、すでに2勝を挙げていることから、「Spider ZT」はいきなりトップ争いに名乗りを上げた格好だ。
では、「Spider ZT」はどうやって“トルクを排除”しながら、伝統の“スパイダーらしさ”を維持しているのか?
その秘密を、これから詳しく見ていこう。
“トルクよ、消え失せろ!”

テーラーメイドのトルク排除メカニズムは、オデッセイやベティナルディなどが採用している構造とよく似ている。パターのシャフトは、ヘッドの重心位置に直接取り付けられているのだ。
この取り付け位置によって、パターはシャフトを中心にバランスが取られ、ストローク中の左右方向の回転(=トルク)が発生しにくくなる。

さらにテーラーメイドは、重心周辺に三角形状に配置された3つのソールウエイトを搭載。これにより、トルクの排除をさらに強化し、慣性モーメント(MOI)も向上させている。
クローン・サーガ、再び…?

「Spider ZT」は、L.A.B.ゴルフやオデッセイ「Square to Square(スクエア・トゥ・スクエア)」の単なる“コピー”なのか?
その思想は確かに似ている。否定はできない。テーラーメイドがこの「Spider ZT」を生み出した背景には、L.A.B.ゴルフがパターマーケット、そしてツアーで成功を収めた事実がある。
テーラーメイドとオデッセイがあらゆる分野で“開発競争”を繰り広げてきたことを考えれば、この『ゼロトルク戦争』も、いずれは起こるべくして起きた展開だったとも言える。
とはいえ、「Spider ZT」は確かに一部で似たような設計要素を持ってはいるが、“ゼロトルク”というコンセプトに対するテーラーメイド独自のアプローチを感じさせるモデルに仕上がっている。

そして何より重要なのは、それが“まぎれもなくスパイダー”に感じられるということだ。
シャフトの取り付け位置は、L.A.B.ゴルフやオデッセイ「Square to Square」に近い構造だが、「Spider ZT」のヘッド構造そのものは、他社とは明らかに異なる。
ヘッドは、フルミルドのマルチマテリアル構造を採用。
ヘッド前方は「303ステンレススチール」、後方には「6061アルミニウム」が採用されており、それぞれ別々に削り出されている。

ヘッド形状は、「Spider Tour」ほど丸みはないものの、周辺重量配分(ペリメーターウエイト設計)のおかげで、「Spider ZT」にはしっかりと“スパイダーらしさ”が息づいている。
さらに、打感がソフトで反応の良い『Pure Rollフェースインサート』も搭載。このフェースが加わることで、“あのスパイダーの感覚”が、さらに強く感じられる仕上がりになっている。

上下から“狙える”アライメントサポート
「Spider ZT」には、2種類のアライメント補助機能が搭載されている。
ひとつは構えたときに“目で見て”サポートしてくれるもの、もうひとつは“感覚的に”位置を整えられる設計だ。
今回のモデルには、新たな『True Pathアライメント』が採用されている。
ただし、「Spider ZT」はそのヘッド形状とシャフトポジションにより、従来の「True Path」をそのまま使うことはできなかった。
その代わりにテーラーメイドは、ボール幅に合わせた複数のラインと、中央に1本の黒いラインを、ヘッド前方にミルド加工で刻み込んでいる。
これらすべてのラインはシャフトより前方に位置しており、構えたときにもはっきりと視認できるのが特徴だ。
実際に構えてみると、ターゲットに対して非常に構えやすく、効果的なアライメント機能だと感じた。

“目で見る”のではなく、“感覚で感じる”アライメントサポートがもうひとつある。
それが、ヒールからトウへと緩やかにカーブしたソール形状だ。このソールは、「Spider ZT」の中央ホーゼルポジションに対応する形で設計されている。
理論的には、この形状によって常に同じポジションでパターをセットしやすくなり、インパクトでもスクエアに戻しやすくなるというわけだ。
“ブルースーツ”のスパイダー、誕生
「Spider ZT」では、新たなロゴとカラーリングが採用されている。
今回のロゴは、これまでの「Spider」ロゴよりもずっと左右対称で抽象的なデザインに仕上がっており、そのフォルムは「Spider ZT」自体のバランスの取れたヘッド形状と見事に呼応している。

個人的には、この新ロゴに強く惹かれている。初めて、“Spider”というシリーズを本当に象徴する存在になったと感じた。
パターのソールはもちろん、グリップやヘッドカバーに配置されたロゴも抜群に映えている。
このロゴなら、“親愛なる隣人”の胸にあっても、きっとしっくりくる。
「SuperStroke」も“ゼロトルク”に傾倒

「Spider ZT」に装着されているのは、「SuperStroke」の新作『1° Off-Axis Pistol 1.0』グリップ。
この「Off-Axis(オフアクシス)」とは、グリップの装着位置が中心から1度だけ傾いていることを指している。
一見すると、これは「SuperStroke」版のL.A.B. Golf『Press Grip』のようにも見える。
実際、このグリップ内部には1度の傾斜が設けられており、ヘッド側に1度のシャフトリーン傾斜が組み込まれている「Spider ZT」と正確に連動するようになっているのだ。
正直なところ、今や他ブランドがL.A.B. Golfの設計を“参考にしている”事例は数えきれない。
たとえばPXGも、最近リリースした「Bat Attack ZT」に独自版の『Press Grip』を採用している。

興味深いのは、この新しいグリップを手がけたのがテーラーメイドではなく、「SuperStroke」だったという点だ。
この「Off-Axis」グリップが「Spider ZT」専用の1本限りの採用なのか、それとも「SuperStroke」が今後「Off-Axis」シリーズとして展開していくのか。
注目すべきポイントはそこにある。
もしライン展開されるなら、ゼロトルクパターのリグリップを考えているゴルファーにとって、大きな選択肢の広がりとなるかもしれない。
「Spider ZT」を実戦投入

「Spider ZT」を実際にコースで打ってみた。
実は届いたその日に、箱から出してそのまま1番ホールへ直行。まあ、よくある話だ。車からティーイングエリアまで“ぶっつけ本番”ってやつ。
練習パットなしのぶっつけ本番だったが、「Spider ZT」はいきなり手に馴染み、しっかり狙ったところに打てた。
ゼロトルクパターは以前から使っているから、感覚的にもすぐ合ったんだと思う。それに最近、いつものエースパターをベンチに下げて、パープルの「MySpider Tour」をバッグに戻していたところだったんだ。
ときには、「3パットしたら即ガレージ行きだぞ」とエースパターに思い出させてやる必要がある。

それはさておき。
テーラーメイドのゼロトルク設計は、ストローク中にもこれまでの「Spider」らしい一体感あるフィーリングを感じさせてくれた。
『Pure Roll』インサートは非常にソフトな打感ながら、しっかりとボールに転がりを与えてくれる。
ラウンド終盤、夕方のグリーンで芝がやや伸びていた影響でいくつかショートしたパットもあったが、打ち出し方向はほとんど完璧だった。
実際に打ってみて、「Spider ZT」を使うテーラーメイド契約プロは今後さらに増えていくだろうし、ツアーでの勝利ももっと積み重ねていくはず。そんな確信がある。
「Spider ZT」のモデル展開とスペック

■「Spider ZT」スタンダードモデル:価格66,000円(税込)
■「Spider ZT」カウンターバランスモデル:価格71,500円(税込)
■「Spider ZT」ロングモデル:価格77,000円(税込)
現在発売中。
※下記はアメリカ仕様のスペック
テーラーメイドは「Spider ZT」を3タイプの長さ/仕様で展開する。
■ スタンダードモデル
長さ: 33/34/35インチ(右利き・左利き対応)
ロフト角: 2.5° ライ角: 70° ヘッド重量: 370g
税込価格: $449.99(メーカー希望小売価格)
■ カウンターバランスモデル
長さ: 36/38インチ(右利き・左利き対応)
ロフト角: 2.5° ライ角: 70° ヘッド重量: 395g
税込価格: $499.99(メーカー希望小売価格)
■ ロングモデル
長さ: 46インチ(右利きのみ)
ロフト角: 2.5° ライ角: 70° ヘッド重量: 470g
税込価格: $549.99(メーカー希望小売価格)
「Spider ZT」の各モデルは、価格帯で見るとオデッセイ、PXG、ベティナルディ、イーブンロール、そしてもちろんL.A.B. Golfのゼロトルクパターと真っ向から競合する。
そんな中で、テーラーメイドが一歩抜きん出る可能性があるポイントが2つあると感じている。
まずひとつは、見た目の完成度だ。「Spider ZT」はとにかく見た目が洗練されていて高級感がある。
ミルド加工の仕上がりも申し分なく、質感のあるブルー仕上げのソールプレートと鮮やかなブルーの専用ヘッドカバーが、数あるパターの中でもしっかりと存在感を放っている。
ブルーのカラーリングが好みじゃない人は、「MySpider ZT」プログラムの登場を一緒に願ってくれないか?
もしこれがパープルで出たら……ガレージにいる他のパターたちが、きっと震え上がるはずだ。

そして、テーラーメイドにとってもうひとつ大きな強みがある。
それは「Spider」シリーズを長年愛用してきたゴルファーが大勢いるということ。そして「Spider ZT」は、間違いなく“スパイダーらしさ”を感じられる1本に仕上がっている。
ゼロトルクパターに興味はあるけど、手を出すのがちょっと不安。
そんなゴルファーでも、信頼できるメーカー名と聞き慣れたモデル名があれば、一歩踏み出しやすくなるはずだ。
たとえばブライアン・ハーマンは、2016年から「Spider OS」を使い続けてきたが、ついにそのエースを「Spider ZT」へとスイッチした。
この流れを見て、長年「Spider」シリーズを使ってきた他のゴルファーたちも、同じ道をたどる可能性は高いだろう。
「Spider ZT」の登場は、テーラーメイドからの真っ向勝負の宣戦布告のようにも感じられる。
他ブランドがこれにどう応えるのか。その動きが今から楽しみだ。
「楽な勝負で勝っても意味はない。本当に価値があるのは、苦しいとき、勝ち目がなさそうなときに立ち向かった勝利なんだ!」 ピーター・パーカー『アメイジング・スパイダーマン』(Vol.1)#33より
「Spider ZT」パターは、6月5日より一般販売開始中。
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