2025年の『ライダーカップ』が「ベスページ・ブラック」で開催されると発表されたときから、ニューヨークのオーディエンスがどれほど熱狂的で騒がしい雰囲気を生み出すのか、大きな注目が寄せられている。
なにしろ「ベスページ」といえば、2002年の『全米オープン』でセルヒオ・ガルシアが、クラブを延々と“ワッグル(ショット前にクラブを小刻みに揺らす動作)”し続け、まるで昏睡状態に陥ったかのように見えたとき、ニューヨーカーは容赦なくヤジを飛ばした場所。
また2019年の『全米プロ選手権』では、優勝を目前にしてダスティン・ジョンソンに1打差まで迫られたブルックス・ケプカに対し、崩れるのを願うかのよう「DJ!DJ!」の大声援を送った。 「ベスページ」(とニューヨーク)はそういう場所だ。ニューヨーカーが、“敵チーム”を応援する立場になったときに何をするか、想像できるだろうか?
しかも、その相手がヨーロッパ代表チームだとしたら?
たとえチケットが定価750ドル(それでも48時間で完売)と高額で、一部の雑多な人々を遠ざける狙いがあったとしても、ニューヨーカーがまるで“フーリガン“のように騒がしく憎たらしく振る舞うのを止めることはできない。
横柄なヤンキースファンをいやというほど見てきた経験からいうと、彼らにとってそれはもはや”お家芸”であり、無きゃないで味気ない。「火事と喧嘩は江戸の華」はニューヨークでも健在ということ。『ライダーカップ』といえば、当然のようにあらゆるヤジが飛び交う大会であり、その内容は年を追うごとによりプレーヤーを鋭く刺す辛辣なものになっている。
ゴルフ史上でも最悪レベルの罵声が飛んだのは4年前の『ウィスコンシン大会』で、その中心は、チーズカードを食べ、スポッテッド・カウ(地元ビール)を飲む、普段は善良な中西部の人々だった。 つまり、ライダーカップとはそういう舞台である。ニューヨークみたいな大都会であっても中西部の片田舎であってもね。ライダーカップで横柄なのはアメリカ人だけではない。
ヨーロッパの観客もまた、ゴルフにおける適切なスポーツマンシップの一線を軽々と越えるような、同じくらい容赦ない罵詈雑言をふりまいてきた。つまり、今回の『ライダーカップ』に更なるヤジのネタは必要ない、ということ。もう十分沸点付近まで温まっている。
今回はアメリカがホームで全てのプレッシャーを背負う立場にある。直近9大会のうち8回は開催国が勝利しており、その流れを死守しようと必死なのだ。
番狂わせを狙うヨーロッパは、経験の面で優位に立っている。その強みは、ロングアイランドで待ち受けるであろう“蜂の巣をつついたような”狂乱を乗り越えるために必要となるだろう。
それだけで胸が高鳴り、血が騒ぐには十分すぎる。

そこに加わるローリー・マキロイとブライソン・デシャンボーの因縁
ローリー・マキロイとブライソン・デシャンボーは、明らかにゴルフ界に対するビジョンが一致していない。
その確執の多くは、デシャンボーが2022年に「LIVゴルフ」へ移籍したときに始まった。
マキロイはPGAツアーを擁護し、LIVへ離脱した選手たちへの考えをはっきりと示していた。一方、デシャンボーはPGAツアーを相手取った訴訟グループの一員だった。そしてこのライバル関係には、コース上での二つの重要な章が加わった。
2024年の『全米オープン』ではデシャンボーがマキロイを下し、その後マキロイが記者会見を欠席するという後日談が残った。そして今年の『マスターズ』最終日、二人が同組で回った際には、マキロイがデシャンボーに雪辱を果たした。
『マスターズ』の最終ラウンドでは、デシャンボーはマキロイが自分と会話を交わさなかったことに不快感を示したようだった。
その後マキロイは、「自分は彼と親友になるためにこの大会に出ているわけではないし、そうあるべきでもない」と応じた。
さらに火に油を注いだのが、『ハッピー・ギルモア2』(Netflixdeで公開中)プレミアでのデシャンボーの一言だ。
彼は「ライダーカップでは、マキロイの耳元でちょっかいを出してやる」と語ったのだ。この挑発的なコメントで、再戦への空気を一気に熱くした。神経質で知られるマキロイは、その発言を快く思わなかった。
マキロイは『ガーディアン』紙のインタビューでこう語った。
「彼が注目を集める唯一の方法は、他人の名前を口にすることだ。俺はそう思っている。注目を浴びたいからこそ、俺やスコッティ・シェフラー、その他の選手の名前を出すんだ。」唯一の方法?いやはや。どうやらマキロイは「YouTubeゴルフ」を見ていないらしい。
もっとも、デシャンボーは火曜日に大人の対応を見せ、外交的なコメントで応じた。
「特別な意味はなく、ただ楽しみにしているだけなんだ」とデシャンボーは語った。
「ちょっとしたやり取りができればいいし、もし彼が自分のやり方を貫くならそれでも構わない。問題ないさ。観客は僕らの味方になるだろうし、きっと楽しい時間になるはずだ。ただ最終的に、僕の役目はゴルフボールを打つ僕を見て、子どもたちが笑顔になるようにすることなんだ。」「僕たちゴルファーには誰の間にもライバル関係がある。ロリーとの間でそれが強まっているかって? もちろん、そういうふうに捉えることもできるだろう。でもね、コースに立つときは常に自分のベストを尽くそうとしているんだ。そしてそれがゴルフ界のためになるのなら、それでいいと思っている。」
どう見ても、この二人の間にはピリピリした空気が漂っている。お互いに意地っ張りな性格だけに、その火花は避けられない。
だからこそ、今週末の『ライダーカップ』で、ぜひ同組対決が実現してほしいものだ。観客とマキロイ ── 爆発寸前の時限爆弾か?
同じ『ガーディアン』紙のインタビューで、マキロイは「今週、観客によるトラブルが起こるのは避けられないだろう」と語った。
熱気が最高潮に達すれば、冷静さを保つのは難しい。マキロイ自身、過去にその弱点を露呈している。
2016年の『ライダーカップ』ヘーゼルティン大会では、罵声を浴びせた観客を退場させたが、後にその対応を後悔していたと語っている。
2023年ローマでの『ライダーカップ』でも、マキロイは激情を露わにした。
パトリック・キャントレーとの対戦中、キャディのジョー・ラカバが大きなパットを決めた後に度を越したパフォーマンスを見せ、それがマキロイの逆鱗に触れたのだ。マキロイは冷静にこう語った。
「そういう環境に入って、5~6日間も滞在し、毎日8時間もの間ずっと観客から声を浴び続ければ……誰か一人、あるいはチーム全体が影響を受けるのは避けられないと思う。だから僕たちは、その状況をしっかりコントロールし、互いに支え合い、守り合うことが大切なんだ。」
この言葉は、ゴルファーにとって雑音を遮断することがいかに難しいかを物語っている。(同時に、マキロイが何らかの形で感情を爆発させるのは避けられないようにも思える。)
サッカー、野球、バスケットボールなど他競技のアスリートなら“ヤジを浴びる”ことなど日常茶飯事だ。
だがトップゴルファーにとって、その非日常が訪れるのは2年に一度の『ライダーカップ』だけ。それこそが、長きにわたりホームチームがこの大会で強さを誇ってきた理由のひとつなのかもしれない。
その意味では、チームスポーツで熱狂的な観客のプレッシャーを経験してきたプレーヤーは強い。だが理由はどうあれ──ニューヨークでは必ず一幕の“芝居”が繰り広げられる。2年に1度、ブロードウェイでも観ることができない珠玉のドラマだ。
ポップコーン片手に、その瞬間を待つとしよう。
【トップ写真キャプション】マスターズ後、握手を交わすブライソンとマキロイ。(GETTY IMAGES/Richard Heathcote)
Leave a Comment