私はPGAツアー選手が参加するシミュレーターリーグ「TGL」が、2025年にゴルフファンの注目を集めるだろうという記事を書いた。
※「TGL(ティージーエル)」は、タイガー・ウッズとローリー・マキロイが発案した、「シミュレーションとリアルを融合させた新しいゴルフリーグ」。2025年1月に開幕する予定で、PGAツアーの選手で構成された6チームが、フロリダ州パームビーチガーデンズにある「SoFiセンター」で戦う。
2025年1月から3月にかけて開催される「TGL」には、かなりの魅力が詰まっている。
例えば「ESPN」の放送枠や、ツアー競技ではあまり見られないタイガー・ウッズがこのリーグに“安定して出場する”という魅力だ。何かとメディアを騒がせるタイガーの登場だけで、視聴率は最低限保たれそうだ。@TGL preseason warmup✅@commongolf @Keegan_Bradley pic.twitter.com/ZaWlyXO7vI
— Rory McIlroy (@McIlroyRory) December 12, 2024
競技のフォーマットやテクノロジーも興味深い。各チーム4人を選定し、そのうち3人が試合に出場。最終的にはチームごとのプレーオフに進むという形式だ。ゴルフ界がまだ開拓しきれていない「ギャンブル市場」への可能性も秘めているのが、何ともアメリカンなところ。
個人的には「TGL」がゴルフにとって素晴らしい何かをもたらしてくれると考えている。少なくとも、従来の退屈なゴルフ中継よりは面白いはずだ。
「ESPN」(アメリカのスポーツ専門チャンネル)での放映はゴルフを普段見ない人たちにもアピールする大きな後押しになる。ただし、“革命”を起こすからはギモン。むしろ、長年停滞しているこのスポーツにそよ風を吹かすくらいが関の山じゃないかな。とはいえ、「TGL」にはツッコミどころもいくつかある。もしこの企画が空回りするとすれば、以下の5つの要素が原因になりそうだ。
1. チームに意味がない
まずこれ。正直、首をかしげたくなるポイントだ。しかも「LIV(リブ)」がちょうど同じミスを犯したばかりだというのに。
「TGL」のチーム編成は完全に「謎」。選手たちは「主要都市」(ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストンetc.)を代表するとされているが、その都市出身はほとんどいない。
4人の選手同士のつながりも、「全員がツアープロ」ということ以外にはない。なぜこの選手がこのチームにいるのか? 誰も知らないし、説明もない。試合はすべてフロリダ州南部の「SoFiアリーナ」で行われるため、ホーム戦やアウェイ戦も存在しない。では、なぜ選手たちは都市を代表する必要があるのか?
「LIV」が失敗した一因は、チーム構成が場当たり的すぎたことだ。選手が気まぐれにトレードされ、特定のチームに所属する理由が見当たらない。「TGL」も似たような道を辿りそうだ。
「TGL」はなぜもっと違う方法でチームを組まなかったのか? 例えば、最も人気のある6人をキャプテンにして、自分のチームメンバーをドラフトする形式にすればいい。タイガーのチーム、マキロイのチーム、モリカワのチーム、といった具合に。
そうすれば“つじつま”が合うのに。タイガーのチームにジャスティン・トーマスがいるのは、タイガーがマックス・ホーマではなく彼をドラフト(選抜)したからだと。
そして、ドラフトで最後に選ばれた選手が活躍したらどうなる? 有力だと期待され最初に選ばれた選手が不調だったら? そんなドラマも期待できる。日本のゴルフファンにとっても、こういった選手間の駆け引きや意外な展開は興味を引きつけるに違いない。
例えば、タイガーのチームに松山英樹がいるのは、タイガーがドラフトで星野陸也ではなく松山を選んだからだ、といったら最高だよね。
そんな背景があるだけで、「タイガー、さすが分かってるな」とか、「いや、星野の方がフィットしたんじゃない?」なんて会話が弾むし、つい自分がタイガーになった気分でドラフト戦略を語りたくなるはず。そうなれば、試合を観る目線が一気に変わるよね!
2シーズン目では、最下位のチームが「TGL」に未参戦の選手をドラフトする、例えばツアーでブレイクした選手を指名する、といった形も面白い。新たな才能が入ってきたり、逆に脱落する選手が出たりすることで、観る側もワクワク感が増す。
でも今の「TGL」の設定では、特定のチームを応援する理由が見当たらない。地域性があるわけでもないし、ドラフトで選ばれたわけでもない。なぜこのチーム構成なのか誰もわからないし、説明もされない。
例えば「なぜトム・キムがタイガーのチームにいるの?」と聞かれても、「なんとなく?」としか答えられないのが現状だ。2. 選手たちのキャラクターが面白さに欠ける可能性
「TGL」のコンセプトは、選手たちが試合中に常にマイクをつけ、カジュアルで観客と双方向のやり取りが楽しめる雰囲気を作ることだ。「え、それってYouTubeじゃん」と言いたくなるが、確かにその点は視聴者が期待するところ。
YouTubeのゴルフ動画では、個性的なキャラクターがカメラ越しに輝き、ジョークで観客を楽しませながら、たまに良いショットが混ざるというスタイルが成功している。
しかし、「TGL」の選手たちはどうだろう?
彼らは真剣なゴルフを生業としている。世界トップの座を目指し、日々トレーニングを重ねているアスリートだ。つまり、「ファット・ペレス」(5万人以上のフォロワーをもつユーチューバー)のようなジョークを飛ばせるゴルファーじゃない。
ティーショットで300ヤード飛ばすことなら朝飯前だろうけどね。どちらかといえば、「集中モード全開」で勝つためにプログラムされたガチのスポーツマンだ。彼らは面白いのか? その面白さが画面に伝わるのか?プロのアスリートたちが、突然カメラを前にして盛り上げること簡単ではないだろう。そして、試合中の解説もあまり期待できないのではないかと思う。
このTGLフォーマットには、スポーツ要素よりも「エンタメ」が必要だ。
トラッシュトーク(試合中の挑発)はもちろん、笑いあり、バカ騒ぎあり、時にはこれ絶対無理だろ!みたいなショットを試みる瞬間があったっていいし、そのショットが成功(失敗)したときのリアクションこそ我々が見たいものだ。スコット・ヴァン・ペルトとマーティ・スミスが選手にインタビューするのは楽しみだね。彼らはユーモアたっぷりでウィットにも富んでいる。でも、選手たちが毎週そのノリについていけるかはちょっと疑問だな。
まあ、そんな懸念もあるけど、次の問題に進もうか。
3. TGLは必要以上に真剣になりすぎる可能性がある
さて、「TGL」が成功するためには、もっと面白おかしく、ユーモアを交えた方向に進んだ方が成功するだろう。PGAツアーのゴルフやエキシビションマッチのようには絶対にしてはいけない。逆に、従来のゴルフとは真逆を目指すべきだと思う。
競技にはある程度の仕組みは必要だけど、それだけじゃ足りない。もっとアメリカの長寿番組「サタデー・ナイト・ライブ」みたいに、コメディと毒舌を交えたユーモアが必要だ。
ケビン・キズナーはNBCのゴルフ中継にも出演しており、このリーグにも参加している。
彼はユーモアのセンスがあり、同時に試合で見せる落ち着いたプレースタイルでも知られているが、だからこそ、このリーグがシリアスな競技ゴルフだとスベる可能性が高い。彼が参加する以上、笑いに変えるべき、むしろエンターテイメントとして楽しむべきだ。このリーグの優勝者には特に意味はないし勝つことは重要ではない。完全にエンタメ目的に特化すべき。
すべてのショットに意味とか“重み“を持たせようとするのはやめてほしい。これが「LIV」の失敗だって断言できる。普通のゴルフに近すぎなんだよ。結局、”いつものツアーのちょっと劣ったバージョン”にしかなっていなかった。
「TGL」の初回放送では、それが保守的なツアーの雰囲気とは全く違うことを切に願う。正直、これが上手くいくとは思えないけれど、それには大きな理由がある…。
4. TGLを仕切ってるのは業界の人たち
「TGL」を支えているのは誰だろう?
「TGL」は、ウッズ、マキロイ、そして「NBCスポーツ」の幹部であるマイク・マカーリーが設立した会社「TMRW Sports」によってプロデュースされている。しかし、PGAツアーとの提携もある。
ウッズとマキロイが前面に立っているが、実際にはマカーリーやゴルフ界の既存勢力が中心だ。マカーリーは2011年から2021年までNBCスポーツのゴルフ担当を務め、「GolfPass」や「GolfNow」のようなサブスクリプションサービスも手掛けていた。
ビジネスの匂いがする・・・・
「NBC」のゴルフ中継は長い間ひどかったからね。「NBC」が所有する「ゴルフチャンネルは正直ヤバい。オリジナル番組がほとんどないし、朝の番組はひどいもんだ。サブスクリプションサービスを使っている人がいるのかも疑問だし(もし使う理由があるなら誰か教えてくれ!)。
ここにさらにツアー特有の真面目さも加わると、「Inside the NBA」のようなショーにはならないだろうと思う。おそらく、エッジも効いてないし面白くもならないと思うから。
もし「TGL」の運営側が完全に業界の外の人たちだったら、もっとワクワクしていたかもしれない。でも、NBCの従来の放送が面白ければ、それだけでも期待できたんだけど、現実はそうじゃない。
ここ数年の混乱でプロゴルフ業界への信頼が揺らいでいる。だからこそ、業界人を信じるのは簡単ではない。
5. これはまた別のお金の再分配なのか?
もちろんお金の話は避けて通れない。
「TGL」は、トップツアー選手たちにもっとお金を渡すための表面的な試みなんじゃないか? 「LIV」を受け入れず大金を手に入れられなかった選手たちへの慰めとして、ただ彼らの財布を膨らませるだけのものになっていないか?
正直なところ、答えは「イエス」だと思う。少なくとも部分的にはね。PGAツアーは、才能ある人材を確実に国内に留まらせるために必死になっているし、「TGL」が選手を経済的に満足させるための副業のようなものでは?と考えている。
そうなると少し不安だな。選手たちはファンのために本当に面白いものを作り上げようと思っているのか?それとも、お金を手に入れて、さっさと次に進みたいだけなのか?ちょっとしたお小遣い稼ぎみたいにならなければいいけど。
これが成功するかどうかタレント(選手たち)次第。彼らの魅力を全開にし、見たことがないような表情とかトークとかを引き出せないと「TGL」は確実に失敗するだろう。
でも、もしタイガーが見せるような情熱とエネルギーで、みんながゴルフの魅力を存分に引き出してくれたら…それこそ最高のエンタメが生まれるかもしれない。ゴルフファンとしては、魅力満点のプレーに期待するしかない!
「TGL」は果たして成功するのか?あなたはどう予想する?
トップ写真キャプション:タイガー・ウッズとローリー・マキロイがTGLの推進力となっている。(GETTY IMAGES/Christian Petersen)
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