テーラーメイドの「P790」について語るとき、このモデルがアイアン市場に巻き起こした“地殻変動”を無視することはできない。
というのも、2017年に初代「P790」が登場するまで、「競技志向者(上級者)向け飛び系」アイアンというカテゴリー自体、ほとんど存在していなかったからだ。「P790」がその先駆けだったとは言わないが、「競技志向者(上級者)向け飛び系」というカテゴリーの誕生と成長に最も大きく貢献したモデルであることは間違いない。
では、今はどうだろうか?
現在、「競技志向者(上級者)向け飛び系」アイアンは、「スコア改善型(初・中級者)向け」に次ぐゴルフ業界で2番目に大きなアイアンカテゴリーとなっている。
そしてその中で、テーラーメイドの主力モデル「P790」は、他の「競技志向者(上級者)向け飛び系」アイアンと比較するとき、真っ先に基準として挙げられる存在になっている。
ということは、テーラーメイドが新しい「P790」を発表することは、それだけでゴルフ業界にとってビッグニュースというわけだ。
そしてテーラーメイドによると、5世代目となる2025年モデルの「P790」は、さらなる初速性能を備え、より易しく、そしてこれまで以上に打感が向上しているという。
少し盛り過ぎ(笑)?
かもしれない。でも「P790」にとってはそれくらい期待されて当然のモデルだ。というわけで、テーラーメイドがこの「P790」が“過去最高”とアピールする理由を、具体的に掘り下げていこう。
問題がないからこそ、進化の余地がある「P790」の新たな挑戦

「P790」が市場で成功し続けている理由の一つは、少なからず幅広いゴルファーのニーズを満たしていることにある。
確かに「P790」は飛距離性能に優れた「飛び系」アイアンだが、その見た目は年々“いかにも飛び系”という印象を抑えたデザインになってきている。また「寛容性」にも優れているものの、決して「ミスしても問題なし」と謳ったわけでもない。ある程度の精度が求められるという意味では、上級者にも選ばれる理由がある。
また、「P790」の打感がマッスルバックのような極上の打感と評価されることは(特にテーラーメイド関係者以外からは)多くないものの、『スピードフォーム』を搭載した「P790」は、このカテゴリー内でどのモデルと比べても十分に優れた打感を実現している。テーラーメイドがこうしたパフォーマンス要素を洗練されたデザインに絶妙に融合させたことで、「P790」は現在の市場で最も幅広い層に訴求するアイアンの一つとなっている。
同社は対象ゴルファーをハンディキャップ5~15としているが、実際には、スクラッチに近い競技志向者(上級者)から、上達意欲のあるハンディキャップ20前後の一般アマチュアまで幅広く使用されている。また、「P790」がPGAツアーでフルセットとして使用されることはほとんどなく、いわゆる真の“ツアー”アイアンとは言いがたい。
しかし、このモデルのロングアイアンがセッティングに組み込まれることは珍しくなく、多くのプロが状況に応じて使用しているのが現実だ。2025年モデルの「P790」は、すべての要素を完璧に網羅しているわけではないにしても、多くのゴルファーが求める性能をしっかりと受け継いでいる。
そして、いくつかの重要なアップデートにより、「競技志向者(上級者)向け飛び系」アイアンを検討しているゴルファーにとって、“最有力購入候補(少なくとも試打候補)”となるはずだ。
新要素と改良点
2025年モデルの「P790」に搭載されている新要素と改良点を簡単にまとめてみた。
新開発「4340M」鍛造フェースで初速アップと安定性を両立
2025年モデルの「P790」には、新たに開発された『4340M鍛造フェース』を採用。前作より20%も強度が高くなったことで、フェースをさらに薄く設計できるようになり、ボール初速の向上につながっている。
さらに、「4340M」によりスイートエリアが24%拡大し、より安定したパフォーマンスを発揮する。「FLTD・CGデザイン」採用で番手別に最適な弾道とスピンを実現
テーラーメイドは、前作の「P790」(2023年モデル)から『FLTD・CG デザイン』という番手別の最適重心設計を採用している。
そして2025年モデルでは、この内部構造を改良し、最大40gのタングステンを効果的に配置することで、ロングアイアンは高弾道で打ちやすく、ミドルアイアンはより寛容性を高め。さらにショートアイアンでは低弾道でスピンの効いたコントロールショットが打てるよう、より精密な重心設計が施されている。この番手別設計が、「P790」の幅広いパフォーマンスを支えている。進化した「サウンド・スタビライゼーションバー」で打感と打音がさらに向上
ロフト別に最適化された内部構造によりインパクト時の不要な振動を抑制。周波数を細かく調整することでより心地よく、洗練された打感を実現している。
薄いトップラインと進化したソール形状で、さらにシャープな印象に
ヘッド形状が前作よりもシャープかつコンパクトに。トップラインはより薄くなり、ソールの丸みが最適化したことで、芝の抜けがさらに向上している。
基本的に、前モデルより一貫性が向上したにもかかわらず、新しい「P790」はより「競技志向者(上級者)向け」アイアンらしい引き締まった見た目に進化している。番手間の精度を高めた新ロフト設計

テーラーメイドによると、新しい「P790」は番手間ギャップがより均一になるようにロフト設計を見直している。
その結果、新モデルでは前作よりもわずかにストロングロフト化されており、7番アイアンが0.5度(30度)、4番アイアン(20度)とPW(44度)はそれぞれ1度ストロングになっている。こうしたロフト変更には賛否が分かれるかもしれないが、ゴルフは動きのあるスポーツであり、実際に打つまで何がどう変わるのか予測するのは難しい。
また、アイアンはロフト調整が可能なクラブでもあるので、スペック表に記載されたロフト角はあくまで基準値に過ぎない。
「P790」は依然として“飛び系”、だけどそれだけではない
これはゴルフクラブの話。だから当然、テーラーラーメイドは新しい「P790」がボール初速の向上によって飛距離アップを実現しているとアピールしている。
その初速アップを実現している最大のポイントが、新たに採用された『4340M鍛造フェース』だ。この高強度の素材により、前モデルよりもフェースをさらに薄く設計できるようになった(つまり、それだけボールが速く飛ぶということ)。
初速が上がれば、飛距離も伸びるし、フェース全体でのボール初速の安定性も向上するというわけだ。覚えておきたいのは、スイートエリアが第4世代の「P790」と比べて24%も拡大しているということ。ただし、これはあくまで前作との比較なので、もし第2世代や第3世代から買い替えるとなれば、その進化をさらに大きく実感するはずだ。
また「競技志向(上級者)向け飛び系」アイアンにありがちな課題として、中空ボディ構造(内部にフォームや素材を充填したタイプも含む)は“飛び過ぎる”という問題がある。
「競技志向(上級者)向け飛び系」アイアンを使ったことのある人なら、一度は「なんでこんなに飛んだんだ!?」という、想定より20ヤードもオーバーする“謎の飛び”を経験したことがあるかもしれない。経験上、190ヤードも飛ぶ7番アイアンを自慢するからには、グリーン奥の白杭に目をつぶるしかないだろう。こうした“謎の飛び”が完全になくなるとは言い切れないものの、新しい「P790」のフェースは安定した初速と打ち出しを実現する設計になっているという。
つまり、「飛距離はしっかり出るのに、安定性も向上、予測不能なミスも抑えられる」というわけだ。

打感が悪ければ、どれだけ飛んでも意味がない?
打感が悪く、また打音が軽すぎるクラブは、インパクトの情報が伝わりにくく、ショットの精度にも影響する。
上級者にとって、そんな不確かな打感や耳障りな音は選ぶ理由にならない。中には気にしない人もいるかもしれないが、限度はあるだろう。「P790」は世代を重ねるごとに、打感と打音の向上を追求してきた。初代の『スピードフォーム』は『スピードフォームエア』へと進化。
前モデルでは個別に最適化された『サウンド・スタビライゼーションバー』が搭載し、フィーリングをさらに磨き上げてきた。そして最新モデルでは、これらのテクノロジーをさらに発展させ、新フェース素材とともに機能するようにデザインされた内部構造を採用。打感・打音ともに、より洗練された仕上がりとなっている。

見た目も重視した寛容性
「P790」には数多くのテクノロジーが搭載されているが、市場での成功を語るうえで“見た目の良さ”も欠かせない要素だ。
洗練された美しいデザイン、そしてそれが世代を追うごとに進化していることこそ、このシリーズの大きな魅力のひとつでもある。そして今回も、その美しさは健在だ。
トップラインやソールの微調整についてはすでに触れたが、「P790」には「Qi35」ドライバーと同様、パッと見では気づきにくい細かい変更が多くある。
たとえば、「P790」のロゴがセンターへと変更され、テーラーメイドはこの変化によって「新たな個性が生まれた」としている。
また、ツアーサテン仕上げのボディと、ミラーポリッシュ仕上げのバックバーによるコントラストも特徴的。この美しい質感の差が、周辺重量配分の印象をさりげなく演出している。さらに、ロゴの下には機械加工によるテクスチャーを追加。見た目に精密さが加わり、 全体として、手にしたくなる魅力を持つデザインに仕上がっている。こうした取り組みこそが「P790」が長く支持されてきた理由のひとつ。見た目の魅力もまた、パフォーマンスに勝るとも劣らない“寛容性”なのだ。
まとめ:どんなゴルファーに「P790」は合うのか?
これまでと同様に、新しい「P790」は、スクラッチゴルファーからハンディキャップ15前後までの幅広いゴルファーに向けたモデル。
「飛距離」と「寛容性」、洗練された「見た目」、そして鍛造ならではの「打感」、これらすべてを求めるゴルファーにとってまさに理想的なアイアンだ。もう少し具体的に言うと、こんなタイプのゴルファーにフィットする:
・現在、「スコア改善型(初・中級者向け)」アイアンを使っているものの、よりコンパクトで洗練されたモデルが欲しいなら「P790」が最適だ。
・シングルハンディで、打感を犠牲にせずにもう少し「飛距離」と「寛容性」が欲しいなら、「P790」がまさに理想的な選択だ。
・すでに「P790」を使っていて、さらに見た目が良くて安定性も高まった最新モデルを求めているなら、テーラーメイドは「P790がその答えだ」と言っている。
結論として、「P790」はすべてのゴルファーにとってベストな選択だとは言わない。ただ、依然として「競技志向(上級者)向け飛び系」アイアンの最先端であり続けているのは間違いない。
2025年モデルは、これまでの象徴的な見た目とDNAを継承しつつ、さらに初速が出て、寛容性が高く、そして打感もこれまで以上に優れている。
純正スペック、価格、発売時期
New P790 アイアン('25):
ロフト角:#4(20°)#5(23°)#6(26.5°)#7(30)#8(34°)#9(39)PW(44°)AW(49°)
シャフト:N.S.PRO® 950GH NEO (S) / N.S.PRO MODUS TOUR 105(S)
グリップ:TM Tour Velvet 360 Black/Black(径60/50g)
販売価格:5本セット(#6-PW):¥159,500(税込) #4,#5,AW単品 :¥31,900(税込)
現在発売中。
詳細は、テーラーメイドホームページまで。
※下記はアメリカのスペック
純正シャフトはスチールがKBS「Tour Lite」(R、S、X)でカーボンは三菱ケミカルの「MMT」(75S、65R、55A)。
純正グリップはゴルフプライド「Z-Grip」(52g、580)が装着されている。
またカスタムオプションとして、他のシャフトやグリップも選択可能。
2025年モデルの「P790」は2月18日から先行受付スタートで、発売は3月13日からだ。
希望小売価格はスチールシャフトモデルが1,399.99ドルで、カーボンシャフトモデルは1,499.99ドル。
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