「Pro V1」と「Pro V1x」のサイクル終了まで数か月残る中、タイトリストは新作ボール「Tour Speed」を投入し、時間稼ぎをすることにした。これは、タイトリストがツアーレベル以外のウレタンボールカテゴリーに進出する初の試みである。

最近の『ソフトフィーリングボール』の記事で、これと他のカテゴリーについて触れたことがある。決定的な特徴は、『ウレタンカバー』でありながら、1ダースあたりの価格がツアーボールよりも安いこと。そして、ほとんどがソフトフィーリングボールだ。

結果として、これらのボールに伴うストーリーは、物理法則に逆らう場合もある。それでも、これらのボールがソフトな打感を好むアベレージゴルファーにとって魅力的であることは間違いないだろう。

さらに、大概これらのゴルファーは1ダースに40ドル以上を費やしたくない人達だ。そのため、このカテゴリーから商品を出していなかったタイトリストは、明らかに乗り遅れていたといえる。

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「Tour Speed」の開発を機に、ボール品質とマーケットチャンスの両方に対応すべく、タイトリストは第二ボール工場を4,300平方フィート拡張し、TPU(熱可塑性ウレタン)カバー製造に必要な設備を整え、新作「Tour Speed」発売に備えた。


『熱硬化性キャストウレタン』VS 『熱可塑性注入ウレタン』

もしかしたら改めて詳細に触れるかもしれないが、簡単な復習のため、ウレタンゴルフボールカバーは、『キャスト』と『注入』の2つのカテゴリーに分類される。

タイトリストのトップ商品(Pro V1シリーズとAVX)は、『キャストウレタン』カバー。その他、テーラーメイドとSnellが、『キャストウレタン』を使用している。

ブリヂストンやキャロウェイ、DTC(直販)ブランドのボールをデザイン・製造する多くの工場では、『注入(熱可逆性)ウレタンカバー』を使用している。

ご想像のとおり、どの企業も優れたカバーテクノロジーを使用しているという自負があるため、優劣をつけるのは難しい。

タイトリストは、『キャストウレタン』の方が性能に優れ(グリーンサイドスピンが高い)、耐久性が高いという理由で『キャストウレタン』を採用している。

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「Tour Speed」を投入したからといって、タイトリストの言い分が覆されることはない。『キャストウレタン』の方が優れているのは変わらないが、どうしても価格が高くなる。

したがって、競争力のある性能や低価格であることを考えると、たとえ『キャストウレタン』から格下げしたとしても、サーリンと比べて大きな差がある商品を発売することは同社にとって意味がある。

「Tour Speed」は、『MTR(Multi-layer Thermoplastic Urethane via Retractable Pin Injection)』と呼ばれる新しいカバープロセステクノロジーを活用している。これでも十分な説明だが、このテクノロジーこそが「Tour Speed」を(このカテゴリー内で)最高品質に押し上げるといえる。

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「EXP-01」から「Tour Speed」へ

昨年、テストマーケティング目的で発売された「EXP-01」を覚えているだろうか?これが「Tour Speed」の発売につながった。

昨年の時点では、タイトリストはその取り組みの意図をほとんど明かさなかったが、ボールを半分に割ってみると「Pro V1」とは明らかに異なり、「Tour Soft」でもない3ピース構造が明らかになった。私には「中間」という位置づけに思える(正にその通りだった)。

「EXP-01」はプロトタイプ段階から少し進化し、カバーの配合を変更したことによりスピン量が増え、ディンプルデザインに微調整を加えたことでボールの飛びが最適化されたが、「EXP-01」から得られたかなりの量のマーケティングデータが、この新ボールの改良に活用されたことは間違いない。

しかし、39.99ドルという価格帯と、「Tour Response」や「Tour B RX」、「Chrome Soft」、「Q-Star Tour」のような所謂『ソフトフィーリングボール』と同等のカテゴリーととらえると、商品名に『Speed(スピード)』という言葉が入っているのは不思議だ。

何と説明すれば良いのか…?「Tour Soft」はすでに採用されており、おそらくタイトリストは『Soft(ソフト)』から連想されるネガティブなイメージが拡がるのを阻止しようとしている。『Soft(ソフト)』 がスピードの遅い人向けなら、『Speed(スピード)』を加えてみたらどうか?という発想ではないか。

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※同等のコンプレッションモデル:OnCore「ELIXR」(78)、タイトリスト「Velocity」(80)、タイトリスト「AVX」(80)

MyGolfSpyのボールラボでサンプルを測定したところ、コンプレッションが78と出た。この数値に近いモデルは、タイトリスト「Velocity」(80)および「OnCore ELIXR」(78)。

タイトリストのストーリーによると、「Tour Speed」はボールコンプレッションが低いにもかかわらず、その構造により“スピード”が増すという。つまり、通常より大きめのコアや、レイヤー間を微調整したことで実現したというわけだ。


「Tour Speed」のターゲット

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「Tour Speed」を誕生させた目的が決してツアーボールを作ることではないため、ツアーボールと同等レベルのスピードが期待できないことは知っておくべきだ。そもそも、ソフトフィーリングボールの部類でスピードを求めるのは現実的ではない。

とはいえ、このカテゴリーに引き寄せられるプレーヤー層が求める「ソフトな打感」のボールを提供すると同時に、「Tour Speed」が同カテゴリーの他モデルよりも“スピード”に優れるとタイトリストは謳う。

このことから、通常「Pro V1」や「AVX」シリーズを愛用するゴルファーが「Tour Speed」に降格するとは思えないが、前途の競合他社のボールを使う人が「Tour Speed」の性能やベネフィットに惚れ込み、買い替える可能性は十分にある。

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マーケティングテストの反応

まず話しておきたいのが、対象の商品がテストで優位な結果が出なかったと正直に言うメーカーを見たことがない。

今回のテストは、幅広いハンディキャップレベルによりあらゆる条件下で行ったが、元々「Pro V1」や「AVX」を愛用するゴルファーの大半は、「Tour Speed」よりも愛用のこれらモデルを優先した。

むしろ期待できるのは、「Tour Speed」の競合品を使用するゴルファーの大半が“「Tour Speed」を好む”と報告したことだ。飛距離・スピン、ゴルファーが期待するすべての数字が伸びたという。

基本的に、飛距離がゲームを変えるという教科書通りのストーリーなのだが、重要なのは、タイトリストが満を持してこれまで進出しなかったカテゴリーで勝負できる商品を作ったという事実だ。

さらに理想をいえば、「Tour Speed」が主力の「Pro V1」ビジネスに影響を与えることなく、「Tour Speed」を競合他社から顧客を取り込む布石にしたい。

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この最後の彼らの意図が重要なのだ。タイトリストには、主力商品である「Pro V1」を共食いするボールは作らないという暗黙のルールがある。「AVX」を発売した際に、軽く扱ったのはそのためだ。

それと同じように、「Left Dash Pro V1x」が大きく取り上げられなかったのも一部関係しているだろうし、「Tour Speed」がツアーレベルのウレタンボールでなく、「Pro V1」ほど優秀でなくても、同カテゴリーの競合品以上のレベルという位置づけといえば説明がつく。

ツアーボール信者としては保証できないが、ボールラボテストでの品質を見るかぎり、ソフトフィーリングボールにさらなる性能を求める人は、「Tour Speed」をぜひチェックしてほしい。


タイトリスト「Tour Speed」の価格と販売予定

タイトリスト「Tour Speed」ボールの価格は、39.99ドル。色はホワイトのみだが、今後イエローも発売予定。

「Tour Speed」は、2020年8月7日に販売開始される。