ゴルフクラブ作りにおいて、すべてのメーカーが避けて通れない問いがある。
「完成度が極めて高いモデルの“次”を、どう作るのか?」という問題だ。
仮にそれが、2024年のテストで頂点に立ち、「正確性」「一貫性」、そしてクラス最高レベルのスピン性能をすべて備えたウェッジだったとしたら、その難易度はさらに跳ね上がる。
PINGにとって、その存在が「S159」だった。
このモデルは、単に評価が高かっただけではない。
距離の再現性、方向性、スピン量の安定感──
実戦で結果につながる要素を、明確に引き上げた“転換点”のウェッジだった。
だからこそ、新作「S259」の開発は簡単ではない。
完成度の高い成功作を、ただ踏襲するだけでは意味がない。
一方で、無理に変えすぎれば、「S159」が築いた強みを失うリスクもある。
「良いものをそのままにしておく」という選択肢も、確かに存在する。
だが、常に改良を重ねてきたPINGのクラブ作りを振り返れば、立ち止まるという判断は現実的ではない。
「S259」は、“すでに完成度が高いウェッジを、どこまで研ぎ澄ませられるのか”
その問いに対する、PINGなりの答えとして登場するモデルだ。
そして、いよいよ「S259」ウェッジの登場だ。
予想どおり、PINGはここで慎重なアプローチを取っている。
見た目も構造も、「S159」から大きく変わったわけではない。
だが、その一つひとつの改良は、目的がはっきりしており、使い手の結果に直結する。
では、「S259」ウェッジは「S159」より優れているのか?
その問いに対する答えは、“進化”という視点で見たときにこそ見えてくる。
「S259」は、「S159」の成功を否定することなく、その完成度をもう一段だけ押し上げるためのウェッジだ。
PING「S259」ウェッジ|進化か、それとも方向性の違いか?
「S259」ウェッジは、PING「S」シリーズの“次の完成形”として位置づけるのが最も分かりやすい。
すでにPING「S159」や他ブランドのウェッジに満足しているなら、無理に買い替える必要はない。
だが、新しいウェッジを検討しているゴルファーにとっては、話が変わってくる。
PINGは、「S259」ウェッジを試打候補から外せない位置に留めるだけの、確かな改良を加えてきた。
注目すべきは、
・既存ソールグラインド(ソール形状)の細かな調整
・高ロフトモデルでの、フェースからホーゼルにかけての形状の見直し
これらは見た目以上に、抜けの良さや構えたときの安心感として表れる。
さらに、
・新設計の専用ウェッジグリップ
・EグラインドからPING伝統の「Eye 2」ヘッド形状をあえて外した判断
といった設計上の調整も加えられている。
これらはいずれも、目を引く変化を狙ったものではない。使うゴルファー像をより明確にするための、意図的な改良だ。
その考え方は、開発者の言葉にもはっきり表れている。
「私たちがウェッジ作りで常に意識しているのは、異なるプレーヤー像を見極めることだ。」
「入射条件(インパクト時のクラブの入り方や当たり方)、想定される状況、そしてどんなタイプのプレーヤーが使うのか──その前提を理解することを重視している。」
──PINGのシニア・デザイン・エンジニア、ジェイコブ・クラーク
この言葉が示すとおり、PING「S259」の本質は「万能型」ではない。
入射条件や使われる場面を想定したうえで、最適な答えを用意することにある。
最終的に多くのゴルファーが違いを感じるのは、ソールグラインドの調整による実戦的なメリットと、
一部の高ロフトモデルで広げられた“使える場面の幅”だろう。
PINGが「ソールグラインド」と本気で向き合い始めた理由
PINGのウェッジが現在の評価に至るまでには、明確な“転機”があった。
それが、今から8年前に突きつけられた現実だ。
当時、PINGは自社スタッフのキャディーバッグを見て、ある事実に直面する。
想像以上に多くのスタッフが、PINGのウェッジを使っていなかったのだ。
この状況を、開発陣は軽く受け止めなかった。
「それは私たちにとって、大きな警告だった。
そこから本当に大きな進歩を遂げてきた。今では、PING以外のウェッジをキャディバッグに入れているスタッフは、思い浮かんでも1人か2人くらいしかいない。」
──ジェイコブ・クラーク
この言葉が示しているのは、単なる社内使用率の話ではない。
最も厳しい目を持つ“身内”が使わないクラブは、市場でも通用しない──
PINGはその現実を真正面から受け止めたということだ。
そこからの8年間で、PINGのウェッジ開発は大きく方向を変えた。
PINGのウェッジが大きく変わったポイントを一つ挙げるなら、
それは間違いなくソールグラインドの考え方だ。
2015年の初代「Glide」ウェッジでは、選択肢は3種類。
当時の説明も「ソール幅」が中心で、どこを削り、どこを残すか──そうしたグラインド本来の思想は、まだ十分に語られていなかった。
そこからPINGは、ソール形状そのものを“性能”として捉える方向へ舵を切る。
年月を重ねるごとに設計は細分化され、
PING「S159」では、用途と入射角を明確に分けた6種類のソールグラインドへと進化した。
この流れは、PING「S259」にもしっかりと受け継がれている。
2026年モデルでは、特に高ロフト帯の「Tグラインド」と「Eグラインド」に調整が施され、
グリーン周りでの扱いやすさをさらに高める方向で見直された。
注目すべきなのは、構えたときの印象だ。
「プレーヤーは、特にフェースを開いたときに、ヒール側の形状が少しホーゼル側まで伸びていると、ボールの下に入りやすく感じる傾向がある。
その見た目が、より大きな安心感につながる。ヒールは、特にロブウェッジで少し短くなっている。」
──ジェイコブ・クラーク
ここで重要なのは、PINGが見た目=錯覚として片付けていない点だ。
フェースを開いたときのヒール形状は、実際の抜けやすさだけでなく、プレーヤーが安心してボールを拾いにいけるかどうかに直結する。
「S259」の高ロフトモデルに施された調整は、「よりボールの下に入りやすそうに見える」
「フェースを開いても怖くない」そう感じさせるための、意図された進化だ。
PING「S259」のソール進化は、その積み重ねがどこまで実戦に表れるのかを示す、象徴的なポイントと言える。
では、PING「S259」に加えられた改良は、どれほど控えめなのか。
その答えは、構えた瞬間の見た目が、PING「S159」とほとんど変わらない点にある。
ヒールからトゥまでを見渡しても、形状に大きな違いは見当たらない。
「S259」の調整は、「Tグラインド」と「Eグラインド」に絞られ、しかもその多くは、フェースからホーゼルへと続く形状の“つながり方”に集約されている。
つまり、ソール全体を削り直したわけではない。
フェースを開いたときに、どう見え、どう当たるか──
その一点を、意図的に突き詰めてきた。
この狙いについて、開発者は次のように語っている。
「フェースを開いて、ボールの下に入りやすくなる。それが一番のメリットだ」
「これは本当に小さな、ニュアンスの違いなので、数値で測るのは難しい部分でもある。ロボットテストでは拾えない要素だが、プレーヤーは、クラブフェースがより見えるように感じると言っている」
——ジェイコブ・クラーク
ここでPINGが重視しているのは、測定データだけでは捉えきれない領域だ。
アドレスしてフェースを開いた瞬間に、「拾えそう」「当てられそう」と感じられる視覚的な安心感。
「S259」ウェッジの「Tグラインド」と「Eグラインド」に施された改良は、そうした感覚面の精度を高めるための進化だ。
さようなら「Eye 2」──PING「S259」で終止符を打った伝統デザイン
PING「S259」ウェッジにおけるEグラインドの改良は、単なる微調整ではない。
シリーズ中で最も踏み込んだ刷新と言っていい。
「Tグラインド」と「Eグラインド」の両方でヒール側の形状見直しが行われているが、「Eグラインド」はその中でも、明確に方向性を切り替えた存在だ。
この背景には、PING「Eグラインド」の歴史がある。
2019年の「Glide 3.0」では「Eye Sole」として登場し、PING「Eye 2」を彷彿とさせるハイトゥ形状と、強い個性を備えていた。
そのデザインはPING「S159」まで受け継がれてきたが、PINGはここで一つの区切りをつけている。
「Eye 2デザインは、登場した当初は本当に人気があった」
「ただ、時間とともにその人気は徐々に落ち着いていった。アドレスした瞬間に『いや、これは無理だ』という反応を示す人も出てきた」
──ジェイコブ・クラーク
重要なのは、PINGが「Eグラインド」そのものを否定しなかった点だ。
PGAツアーでは、このグラインドが高く評価され続けていた。
だからこそPINGは、グラインドは残しつつ、より構えやすいヘッド形状へと改める判断を下した。
「Eグラインド」の武器は、ヒール側のソール後方を大きく削った形状にある。
「ヒール側には、最も大きなトレーリングエッジのリリーフ(削り)がある」
「それによって、バンカーでフェースを大きく開くことができる。リーディングエッジをボールの下に入れて高さを出し、その後、幅のあるソール全体が効いて、クラブを素早く砂から抜くことができる」
──ジェイコブ・クラーク
この実戦的な強みこそが、「Eグラインド」がツアーで支持され続けてきた理由だ。
PING「S259」ウェッジの「Eグラインド」は、「Eye 2」という象徴的な見た目からは距離を置いた。
だが、結果につながるグラインド性能は、むしろ磨き込まれている。
さらに控えめな改良──細部に込めた意図
PING「S259」ウェッジで最も目につく改良は、「Eグラインド」と「Tグラインド」に集中している。
一方で、それ以外の部分に加えられた改良は、気づく人にだけ伝わるレベルのものだ。
その代表例が、「Wグラインド」のロフト構成の見直しである。
従来、ワイドソール設計の「Wグラインド」は対応するロフト帯が限られていたが、「S259」では50度と52度が新たに加えられ、50度〜60度までをカバーする構成へと広げられた。
この改良は、単なる選択肢の追加ではない。
狙いは、ワイドソールのアイアンからウェッジへと自然につなげることにある。
この狙いは、PING「G440」のようなソール幅の広いアイアンから、PINGのウェッジへとスムーズに移行できるようにすることにある。
この点については、現場の声が開発に反映されている。
「これは、社内フィッティング施設のフィッターから要望があった点だ」
「ソール全体の幅を考えると、『G440』を使っているプレーヤーが、『S159』ウェッジに移行するのは、どうしてもギャップが大きかった」
──ジェイコブ・クラーク
PING「S259」では、ヘッド形状やソールだけでなく、グリップにも明確な意図を持った改良が加えられている。
それが、独自設計の「Dyla-Grip(ダイラ・グリップ)」だ。
このグリップは、標準より4分の3インチ(約19mm)長い設計となっている。
「S259」ではそこに、手の位置とフェース向きを視覚的に把握できる仕組みが組み込まれた。
注目すべきなのは、ラインの役割が明確に分かれている点だ。
横方向のラインはグリップの握り位置を、縦方向のラインはフェースの開き具合を示している。
つまり、「どれくらいフェースを開いているか」を感覚だけでなく、目でも確認できるようにしたわけだ。
この設計意図について、ジェイコブ・クラークは次のように語っている。
「センターから1本外側のラインは、芝の上から打つときに開く角度に近い」
「一番外側のラインは、バンカーショットで開く角度に近い」
さらに、グリップ下部に追加されたV字ラインは、インパクト時のシャフトの傾きを確認するためのものだ。
「弾道を打ち分けるためにボール位置を操作するプレーヤーにとっては、こうしたチェックポイントが役立つ」
「ただ、こうした機能が不要だというプレーヤーがいても、それで構わない。ただのグリップとして使えばいい」
ここで重要なのは、PINGが使い手に押し付ける設計をしていないという点だ。
使いたい人には明確な“目印”を用意する。
一方で、意識しない人にとっては、通常のグリップとして自然に使える。
Dyla-Gripの改良は、スイングを矯正するためのものではない。
再現性を高めたいゴルファーにだけ、そっとヒントを与える──その立ち位置が一貫している。
PING「S259」ウェッジ:最終評価
PING「S259」ウェッジを評価するうえで、PINGというメーカーの姿勢を抜きに語ることはできない。
長年にわたり多くのメーカーと向き合ってきた中で、PINGは技術そのもの以上に、「どう伝えるか」「どこに意味を見出すか」が明確なブランドだ。
完成度の高いPING「S159」を、どう進化させるか。
その問いに対し、PINGが選んだ指針は極めてシンプルだった。
「害をなすな」
「S259」ウェッジに施された改良は小さく、控えめで、そのすべてが実際の使いやすさに直結している。
たとえば、「エラストマーインサート」はわずかに大型化された。
これは打感を整えると同時に、配置に自由度のある重量を生み出すための調整だ。
フェースの表面処理も、「S159」よりやや強めに施され、表面の凹凸を増やすことで、スピンを保ちやすくしている。
さらに、「S159」で採用されていた下部だけの短い溝を思い出すと、「S259」ではそれがフェース全面に延長されていることに気づくはずだ。
テストの結果、PINGは溝の「見える長さ」のような小さな要素でさえ、構えたときの視線の置きどころや、フェース向きの感じ方に影響を与えることを突き止めている。
「下部の溝が短いと、視線が最も前に出た部分に引き寄せられ、リーディングエッジがより丸く見える傾向がある」
「溝がフェース全面に入ることで、プレーヤーはリーディングエッジ全体の形状を見るようになる」
──PINGのシニア・デザイン・エンジニア、ジェイコブ・クラーク
そう、PINGはやはり「結果につながる違い」を、地道に積み上げ続けるメーカーなのだ。
PING「S259」ウェッジ:グラインドオプション/価格/発売時期
PINGは、新しい「S259」ウェッジを6種類のグラインドで展開する。
ロフト設定はすべて2度刻みで用意されている。
■ Sグラインド
基準となるのが、このSグラインドだ。
ミッドバウンス設計で、スクエアフェースでのフルショットを安定させたいゴルファーに向く。
ヒールとトレーリングエッジのリリーフによって、アプローチでフェースをわずかに開く場面にも対応できる。
ロフト角は50度〜60度。
■ Hグラインド
柔らかい芝や、やや打ち込むタイプのゴルファー向け。
半月形状のグラインドが、入射角が鋭いスイング(ダウンブローが強い)でも、ソールが過度に跳ねず、インパクトを安定させる。
ダウンブローが強いプレーヤーほど、扱いやすさを感じやすい。
ロフト角は54度〜60度。
■ Bグラインド
入射角が緩やかで、スクエアに構えてシンプルに打ちたいゴルファーに最適。
ローバウンスながら、ソール幅はやや広めに設計されている。
ロフト角は58度と60度。
■ Tグラインド
PINGの中で最も低い実効バウンス(実際の接地時に効くバウンス角)を持ちながら、高い操作性を備えたグラインドだ。
「S259」ではトレーリングエッジ(ソール後方)の削りが見直され、フェースを開いても地面に刺さりにくく、コントロールしやすい仕上がりになっている。
ロフト角は58度〜62度。
■ Wグラインド
ワイドソールによる高い寛容性が特徴。
PING「G440」のようなワイドソールアイアンからの流れが自然で、入射角がやや鋭く、打ち込むタイプのゴルファーに向く。
フルショットでの安心感を重視する人にとって、有力な選択肢だ。
ロフト角は50度〜60度。
■ Eグラインド
見た目は変わったが、実戦的な役割は健在。
ソール中央の当たりを抑えた形状がタイトなライで使いやすく、一方で後方の広いバウンスが、バンカーでの安定感を生む。
アプローチとバンカーを1本で任せたいゴルファーに向く。
ロフト角は58度と60度。
PING「S259」ウェッジは、標準仕様のままでも高い完成度を備えている点も見逃せない。
標準スチールシャフトには、独自設計の「Z-Z115」が採用されている。
一方、標準カーボンシャフトは「PING Alta CB Blue」だ。
さらに、PINGのカスタム部門を通じて、追加料金なしで選べるシャフトオプションも多数用意されている。
グリップには、新設計の「Dyla-Grip(ダイラ・グリップ)」が標準装備される。
仕上げは、雨やラフでもスピンを安定させやすいPING伝統の「Hydropearl 2.0 Chrome(ハイドロパール2.0 クローム)」に加え、高い耐久性を持つブラック仕上げのQPQ処理が用意されている。
価格は、2026年モデルとして見れば、過度な上昇を抑えた設定と言える。
スチール仕様は217.50ドル、カーボン仕様は232.50ドル(いずれもメーカー希望小売価格)。
なお、前年モデルのPING「S159」は、在庫がある限り179.99ドルで販売されている。
※本記事内のスペックおよび価格情報は米国市場向けの内容となる。
日本国内での展開や詳細については、『PING公式サイト』で確認できる。
PING「S259」ウェッジは、2026年2月5日発売。




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