ボーケイ「SM11」ウェッジは、ひと目で分かるような革新性を打ち出したモデルではない。
だが──それこそが、このウェッジの狙いだ。

「SM11」は、重心の一貫性、洗練された溝、そしてグラインド設計の見直しにフォーカスしている。
いずれもウェッジ選びと実戦性能に直結する要素ばかりだ。

その目的はひとつ。

ウェッジ選びとショット結果のあいだに生じていた要因のズレを整理し、ゴルファーが結果を予測しやすい状態で、ショットに集中できるパフォーマンスを提供することにある。

正直なところ、ボーケイに限らず、新しいウェッジが発表されるたびに聞こえてくる声はだいたい決まっている。

「何が変わったの?」
「結局、前作と同じじゃない?」
「マジかよ、ボーケイ?まだスレートブルーがないのか?」
──そんな声が出るのも無理はない。実のところ、最後の言葉は私も同じ気持ちだ。


タイトリスト「Vokey SM11」ウェッジの44度から60度までの各ロフトを並べたバックフェース比較画像。仕上げ違いとロフト構成が確認できる。

ウェッジというクラブは、エンジニアの仕事ぶりを“見た目”で語りにくいカテゴリーだ。

カーボンクラウンもなければ、可変ウエイトもない。
技術の多くは、溝の形状や重心設計といった、目に見えにくい部分に集中している。

良くも悪くも、ボーケイ「SM11」もその例外ではない。
見た目だけを見れば、前作と大きく変わっていないように映るだろう。

だが、「前作と同じに見える」ことを理由に、「何も変わっていない」と結論づけてしまうのは、本質を見誤っている。

「SM11」は、ボーケイらしい「見た目」や「打感」を“変える”ためのモデルではない。

これまで「弾道」や「スピン」、そして何より「グラインド選択」に影響していた不要なばらつきを、
静かに、しかし確実に排除するためのモデルだ。

もし「SM10」が、ヘッド形状やアドレス時の見え方を整えるモデルだったとするなら、
「SM11」は、性能を均一化することで、グラインド選びそのものに集中できるモデルだ。


進化は見逃されやすい

タイトリスト「Vokey SM11」ブラック仕上げウェッジのフェース面を撮影した画像。精密なミーリングラインが確認できる。

ウェッジというクラブでは、意味のある進化ほど、目に見えにくい。

溝の形状の変化は、顕微鏡でも使わなければ分からないことがある。

重心位置の改良も、アドレスで見て判断できるものではない。
グラインドの微調整も、プレーへの影響は大きいが、外見上の変化はごくわずかだ。

だからこそ、たとえ中身が大きく進化していても、
ゴルファーは「前作からあまり変わっていない」と思い込んでしまいがちになる。

だが「SM11」は、見た目が前作と大きく変わっていないからといって、中身まで同じだと判断すべきモデルではない。

今回ボーケイが重視したのは、重要でありながら見過ごされがちな3つの要素だ。


重心:グラインドに左右されない一貫した弾道

ボーケイ「SM11」ウェッジのフェースをクローズアップ。精密に刻まれたミーリングラインと溝形状が確認できる。

ボーケイ「SM11」で最も大きな進化は、
“何を測るか”ではなく、“どこを基準に測るか”を見直した点にある。

少し専門的な話になるが、この考え方の転換こそが、「SM11」の弾道安定性を支える設計の要だ。

従来、ボーケイは重心ターゲットを地面基準で設定してきた。
しかしこの方法には、ひとつ問題があった。

それは、グラインドによってアドレス時の座り方が異なるという点だ。

たとえば「T」グラインドは、リーディングエッジが地面にぴったり沿う設計。

一方で、ワイドソールかつハイバウンスの「K」グラインドでは、リーディングエッジが地面から明確に浮いた状態で構えることになる。


タイトリスト「Vokey SM11」50度Fグラインド ブラック仕上げモデルのバックフェースを写した画像。

この違いによって、同じロフトであっても、地面からフェース中心までの距離が変わり、結果として重心高にばらつきが生じていた。

重要なのは、これはパフォーマンスを意図的に変えるための設計ではなく、あくまでグラインド形状の違いが生んだ“副作用”だったという点だ。

その結果、グラインドの違いによって、
芝との当たり方とは無関係に、弾道まで変わってしまう可能性があった。


基準点の変更──SM11の核心

「SM11」でボーケイが行ったのは、基準点そのものの変更だ。

地面を基準にするのではなく、リーディングエッジからの距離を基準として重心ターゲットを設定した。。

リーディングエッジは、どのグラインドでも変わらない。

そのため、この基準を使えば──。

・同じロフトであれば、すべてのグラインドで重心位置が揃う
・弾道がグラインドに左右されなくなる
・グラインドは、芝との相性やインパクト条件だけで選べる

──という、本来あるべき状態が実現する。


複数本のボーケイ「SM11」ウェッジを並べたフェース比較画像。仕上げと溝の違いを視覚的に確認できる。

ツアーフィードバックが後押しした変更

この設計変更の背景には、ツアーからのフィードバックがある。

ボーケイのツアーレップ、アーロン・ディルは、特に「T」グラインドが、同じロフトでも他のグラインドより低く、コントロールされた弾道を安定して示していることに気づいた。

調査の結果、その要因はグラインドそのものではなく、地面基準で測定していたことによる重心高の差にあると判明した。


結果として何が起きたのか

「SM11」の再設計にあたり、ボーケイは、各ロフトで最も理想的な弾道を実現していた「SM10」の重心位置を基準に設定し、その配置をすべてのグラインドに共通化した。

その結果、同じ打点でインパクトしている限り、グラインドに関係なく弾道が揃う。

これは派手な変更ではない。だが、ウェッジ選びと実戦性能に直結する、極めて本質的な進化だ。


溝:欲しいところにスピンを、必要なところに操作性を

異なる仕上げのボーケイ「SM11」ウェッジを並べたフェース比較カット。溝と表面処理の違いが分かる。

ウェッジの記事では、ほぼ例外なく「スピン量アップ」が語られる。

今回の「SM11」も無関係ではないが、はっきりさせておきたい点がある。

「SM11」の溝設計は、スピン量を無条件に増やすためのものではない。

ボーケイの目的は、ロフト角とショットタイプに応じて、必要なスピンを、必要な場面で引き出すことにある。


ロフト別・用途別に最適化された3つの溝設計:

「SM11」では、以下のように新たに3つの異なる溝を採用している。

・ピッチングウェッジ/ギャップウェッジ
フルショット時の一貫性と距離コントロールを重視。
アイアンセットから自然につながる、延長線上の性能を狙った設計だ。

・サンドウェッジ
フルショットでは距離を合わせやすく、タッチショットでは止めやすいスピン設計。
このロフト帯で多用されるショットの幅を、無理なくカバーする。

・ロブウェッジ
最優先されるのは、グリーン周りでのスピン性能。
芝や砂、異物を効果的に逃がしながら、止めたい場面でしっかり止める設計になっている。


溝容量5%増──狙いは「限界値」ではなく「維持力」

ひとつの注目点が、溝容量が約5%増加していることだ。

これは溝形状を大胆に再設計した結果ではない。

製造公差をより厳密に管理することで、USGAの制限により近い領域まで精度を高められるようになった、その成果だ。

この変更は、ラフや濡れたコンディションでもスピンを維持しやすくすることに寄与している。


タイトリスト「Vokey SM11」ブラック仕上げウェッジのフェースを拡大撮影した画像。溝形状と表面処理が分かる。

新フェーステクスチャがもたらすのは「安定感」

さらに「SM11」では、新しいフェーステクスチャ(フェース面に施された微細な加工)も導入された。

重要なのは、このテクスチャ自体がスピンを生み出すわけではない、という点だ。

役割は、ボールがフェース上に留まる時間を確保し、溝のエッジが本来の仕事を果たせる状態を作ること。

その結果得られるのは、数値として強調されがちなスピン量ではなく、距離感を合わせたい場面で、予測どおりに止まる安定した挙動だ。


「一時的な加工」ではなく、フェースそのものの設計

誤解のないように言っておくと、この溝と溝の間のテクスチャは、試打でスピン数値を稼ぐためのコーティングではない。

実戦使用で早期に摩耗するような処理でもない。 フェースそのものの一部として設計された、耐久性を前提とした加工だ。

そして、「耐久性」と言えば──


新しい熱処理

ボーケイ「SM11」ウェッジのバックフェースをクローズアップ。モデル名ロゴとデザインラインが確認できる。

耐久性をさらに高めるため、ボーケイはインパクトエリアに新たな高周波熱処理を施した。

同社によれば、この工程によって溝の耐久性は従来比で約2倍に向上しているという。

ウェッジは、本来の性能が落ちていても、つい使い続けてしまいがちなクラブだ。

だからこそボーケイは、溝の耐久性を高めることで、ウェッジとしての機能的な寿命をできるだけ長く保ちたいと考えている。

もちろん、どんなウェッジも永遠に使えるわけではないが──。

溝のコンディションは、それだけ重要ということだ。


新しくアップデートされたグラインド

タイトリスト「Vokey SM11」ウェッジの44度、50度、56度、60度を横一列に配置したバックフェースデザインの比較画像。

ボーケイは、モデルチェンジのたびに新しいグラインドを追加するか、既存グラインドを細かく調整してきた。「SM11」も例外ではない。

まず注目したいのが、ローバウンス(6度)の「K」グラインドだ。

これまで限定的だったこの仕様が、今回から通常ラインナップに加わり、「T」グラインドと並ぶワイドソール系ロブウェッジの選択肢となった。

一方で、ハイバウンスの「K」グラインドは、表記上のバウンス角が14度から12度へと変更されている。

これは見せ方の調整ではなく、実測値としての明確なスペック変更だ。

「小売市場向けに数字を小さく見せた」という類の話ではない。

さらに、昨年はWedgeWorks限定だった「44.10F」も、今回から通常ラインナップに加わった。

これにより、ストロングロフトのアイアン(例:タイトリスト「T350」)を使うゴルファーにとって、
ボーケイのピッチングウェッジという選択肢が現実的なものになっている。


ボーケイ「SM11」ウェッジのフェースとトップラインを捉えた接写カット。仕上げの質感と溝配置が分かる。

確かに、すでにゴルフ界でも屈指の厚みを誇るウェッジラインナップに、さらに選択肢を加えることは、迷いを生むリスクも伴う。

だが、ボーケイの狙いは「選ばせすぎること」ではない。

ほぼすべてのスイングタイプ、そしてコースコンディションに対応できる選択肢を用意することにある。

この戦略自体は理にかなっている。

ただし付け加えるなら──
適切なウェッジフィッティングは、スコアにもプレー内容にも大きな変化をもたらすにもかかわらず、
それを十分に受けられる環境が、まだまだ整っていないのが現状だ。


ボーケイ「SM11」ウェッジを複数本並べた外観比較。仕上げカラーと質感の違いを確認できる。

軽量ラインナップを同時リリース

近年、ボーケイはウェッジの軽量モデルを、通常モデルの発売からしばらく経って追加するという形を取ってきた。

だが今回は違う。
「SM11」では、最初から軽量ラインナップを同時に用意した。

背景にあるのは、
軽量アイアンシャフトを使うゴルファーが、すでに一定数存在するという現実だ。

そして、その数が今後さらに増えていくであろう、という判断でもある。

そこで「SM11」は、軽量アイアンを使っているゴルファーを前提にした軽量ヘッド仕様を、初期ラインナップから展開。

ヘッド重量は約6g軽く設定され、それに合わせてシャフトとグリップも適切に軽量化されている。

考えてみれば自然な話だ。

もしアイアンが軽量設計(多くのカーボンシャフトを含めて105g以下)で組まれているなら、
ウェッジだけが重いまま、というのは整合性を欠く。

「SM11」でボーケイが示したのは、
ウェッジ単体の話ではなく、セッティング全体を一つの“重量システム”として捉える発想だ。

これまで後回しにされがちだった重量設計を、ようやく最初から考慮する段階に持ち込んだ──
その姿勢自体が、「SM11」という世代を象徴している。


仕上げの変更(スレートブルーは今回も見送り)

ボーケイ「SM11」ウェッジのバックフェースを並べた比較カット。異なる仕上げの違いが分かる。

「SM11」の仕上げラインナップにおいて、スレートブルー(The Best Finish™)は今回も採用されていない。

この仕上げを待ち望んでいるゴルファーにとっては、少し残念なニュースかもしれない。
とはいえ、現行ラインナップ自体は堅実だ。

まず、ツアークロームとニッケルは継続。 そしてジェットブラックも、改良を加えた形で戻ってきている。

従来のジェットブラックは、フラットでマット寄りの質感が特徴だった。

一方、今回のアップデート版は、WedgeWorksや「SM10」後期モデルで採用された
「ジェットブラック・プレミアム」仕上げの要素を部分的に取り入れた仕様となっている。

プレミアムほどの強い艶感はないが、わずかに光沢を持たせることで質感が引き締まり、さらにニッケル同様、指紋や皮脂汚れが付きにくい耐性も備えた。

あえて表現するなら、「ニッケルをさらにダークトーンに振った仕上げ」といった印象だ。

従来のマットなジェットブラックを好むゴルファーもいるだろう。

それでも、実用性と見た目のバランスという点では、今回の仕様のほうが完成度は高いと感じる。(とはいえ、ブルーが用意されていないのは少し残念だ)。

なお、Raw(ノーメッキ)仕様については、ボーケイのカスタムプログラムで引き続き選択可能となっている。


WedgeWorksの変更点について

現時点では詳細を語れる段階ではないが、ボーケイのWedgeWorksに対する取り組みには、いくつかの変化が予定されている。

「SM11」が店頭に並んだあと、あらためて詳しく触れることになるだろう。ここでは、要点だけを押さえておきたい。

WedgeWorksは、限定モデルという位置づけを今後も維持する。一方でその役割は、“希少性”を前面に押し出す存在から、より多くのゴルファーが手に取りやすいプラットフォームへと、少しずつ軸足を移しつつある。

つまり、「選ばれた人だけの特別仕様」から、“実戦で使うための選択肢”としてのWedgeWorksへ。

その変化は、多くのゴルファーにとって歓迎すべきものになるはずだ。


まとめ

「SM11」は、ひと目で違いが分かるような進化を狙ったモデルではない。

ボーケイはPGAツアーで最も多く使われ、小売市場でも最も支持されているウェッジだ。
だからタイトリストは、“変わったことが見て分かる”ためだけに、形状や打感を大きく変えることはしない。

モデルチェンジに求められるのは、外見が大きく変わらなくても、中身が着実に良くなっていることだ。

その前提に立てば、もし「SM11」が確かに良くなっているのに、「ここが変わった」と一言で言い切れるポイントが見当たらないのだとしたら──
それこそが、ボーケイにとって狙いどおりの進化と言えるだろう。

確かに「SM11」には、わずかな外観上の変更もある。
だが本質はそこではない。

目立たないが、プレーに直結する重要な部分が、確実に更新されている。

それが「SM11」というウェッジだ。


スペック、価格、発売時期

ボーケイ「SM11」ウェッジは、ロフト角・バウンス角・グラインドの組み合わせで全27種類をラインナップ。

各モデルは、すべての仕上げに対応し、右利き用・左利き用がラインアップされている。


ロフト角・バウンス角・グラインド展開

※表記は「ロフト角.バウンス角+グラインド名」

ピッチング/ギャップウェッジ
(PW/GW)
サンドウェッジ
(SW)
ロブウェッジ
(LW)
44.10F
46.10F
48.10F
50.08F
50.12F
52.08F
52.12F
54.08M
54.10S
54.12D
54.14F
56.08M
56.10S
56.12D
58.04T
58.06K
58.08M
58.10S
58.12D
58.12K
60.04T
60.06K
60.08M
60.10S
60.12D
60.12K

純正シャフトとグリップ

純正シャフトは、
トゥルーテンパー「Dynamic Gold(スチール)」、トゥルーテンパー「Dynamic Gold 105(軽量スチール)」、
MRC「MMT MCA Red(カーボン)」をラインナップ。

純正グリップは、タイトリスト「Universal 360」が採用されている。


発売時期・価格

ボーケイ「SM11」ウェッジは、すでにフィッティングが可能。

一般発売は2月20日から。

価格(米国)は、
スチールシャフト仕様が199ドル、カーボンシャフト仕様が209ドル、
ノンメッキ仕上げが229ドルとなっている。

※日本仕様のラインアップ・価格などの詳細は、タイトリスト公式日本サイト(Vokey SM11 ウェッジ)でチェックしてほしい。