最近、成長中のゴルフシューズブランド「PAYNTR(ペインター)」がどのように製品を設計しているのかを知るため、ボストンを訪れた。

フライトは60分ほど。距離的には決して遠くないが、その後の時間は想像以上に濃密だった。

共同創業者のマイク・グランシーと話して強く感じたのは、ゴルフシューズの性能は「目立たない部分」で決まるという事実だ。

アウトソールの形状、踏み込み時の反力、足裏のわずかな安定感──そのひとつひとつは数ミリ、数グラムの世界だが、スイング中には確実に差となって現れる。

良いスイングができたかどうかは、実は足元が静かに教えてくれる。

PAYNTRの設計思想に触れたことで、「小さな違い」が18ホールを通して再現性やミスの出方に直結する理由が、はっきりと見えてきた。

ゴルフシューズは、履いた瞬間の印象だけでは語れない──そんな当たり前のことを、改めて実感する時間だった。


PAYNTR GOLFのデザインオフィス内でゴルフシューズ開発が行われている様子

「マウント・エレバス墜落事故」を知っているだろうか。ニュージーランドを出発し、南極へ向かっていた旅客機があった。

しかし、たった2度の座標設定ミスにより、飛行ルートは本来の目的地から28マイル東へずれてしまう。その結果、機体は活火山であるマウント・エレバスに衝突し、墜落した。

2度の違いが28マイルになるなら、足元のわずかな差が、フェアウェイとラフを分けるのも不思議ではない。

この話は、性能の話というより再現性の話だ。そして、その再現性は、クラブよりも先に―足元から始まっている。

これは、ほんのわずかな変化が、いかに大きな違いを生むかを示す一例にすぎない。

クラブフェースの打点が芯から数ミリずれるだけで、ボール初速は落ち、スピン量が変化し、弾道や落下地点は大きくズレる。自分では「悪くないスイング」に感じても、結果だけが噛み合わない──そんな経験があるはずだ。

ほんのわずかな違いが、結果を大きく左右する。ゴルフシューズは、その「見えない数ミリ」を支えるための道具だ。

PAYNTRがここまで急速に存在感を高めている理由は、決して派手な戦略や大量生産にあるわけではない。細かな違いを、決して妥協しない姿勢──それがすべてだ。

マイク・グランシーとマイク・フォーシーが率いるPAYNTRのチームは決して大きくない。だが、ゴルフシューズ業界の“当たり前”を疑い、あえて違う選択を積み重ねている。

それは必要に迫られての選択ではない。「最高の一足を作る」という目的のために、そうしたいからやっている。

ゴルフシューズは、差が見えにくいカテゴリーだ。

だからこそ、アウトソールの構造、足裏の安定感、踏み込み時の力の伝わり方など、ほんのわずかな差がラウンド中に効いてくる。その小さな積み重ねこそが、競合との差を生み、結果として“勝ち続ける一足”につながる。

私はPAYNTR Golfのデザインスタジオで数時間を過ごし、その考え方を直接確かめた。

PAYNTRのアプローチがなぜ他と違うのか──そして、その違いがブランドには確かな成長を、ゴルファーには実感できるパフォーマンス向上をもたらしている理由が、はっきりと見えてきた。


「PAYNTR(ペインター)」を支える専門性と経験


PAYNTRの強さは、「新興ブランド」らしからぬ経験値の厚みにある。

グランシーとフォーシーは、ナイキ、リーボック、アンダーアーマー、フットジョイといった名だたるブランドで、長年シューズ開発の最前線に立ってきた。

重要なのは、ただ在籍していたという事実ではない。何が本当に機能し、何が無駄になりやすいのかを、現場で見極めてきたことだ。

「スパイク付きフットウェアの設計に長年携わってきたことが、ゴルフの革新を前に進める原動力になったと本気で思っている」とグランシーは語る。

「私たち(マイクと私)は、世界最大級のブランドで合計50年以上にわたるフットウェアの経験を積み、何が機能し、どこを効率化できるのかを見てきた」

50年以上に及ぶフットウェア開発の積み重ねは、単なるキャリアではない。

数え切れない試作、失敗、修正、その先にある成功。そのすべてが、今のPAYNTRの設計思想を形作っている。


PAYNTR GOLFのオフィスに並ぶゴルフシューズと開発機材のディスプレイ

PAYNTRのシューズには、過去に彼らが在籍してきたブランドの経験が、はっきりと刻み込まれている。

それはロゴやデザインの話ではない。設計思想そのものだ。

一般に、1万時間を超えると“その道の熟練者”と言われる。

グランシーとフォーシーが積み重ねてきたのは、約43万8,000時間分のフットウェア開発。これは、流行や一時的な成功では到達できない領域だ。

ただし、彼らは自分たちを「完成された存在」だとは考えていない。理由はシンプルだ。PAYNTRにとって、「ここまでで十分」という発想そのものが存在しない。

すでに大手ブランドで頂点を見てきた二人が、あえて安定した環境を離れ、ゼロからブランドを立ち上げたのは、もう一度、自分たちの手で“本当に納得できる一足”を作りたかったからだ。

過去の成功にしがみつかず、もう一度山を登り直す。

その覚悟が、設計の細部に表れ、ラウンド中の安定感として返ってくる。

それが、PAYNTRが他と違う理由。

小さな差を、決して軽視しない。

それこそが、PAYNTRの本質だ。


「PAYNTR(ペインター)」を加速させる俊敏性

PAYNTR GOLFのデザイン開発現場で、ジェイソン・デイがゴルフシューズの設計資料を確認している様子

PAYNTR Golfのデザインスタジオに足を踏み入れると、グランシーが“作り手である前にアスリート”であることが自然と伝わってくる。

デスクの後ろに置かれた、大学ラクロス時代のヘルメットは、その象徴だ。

アスリートが身につけるべき要素は多いが、PAYNTRのものづくりに最も色濃く反映されているのが俊敏性だ。

考え、決断し、形にするまでが速い。これが、混戦状態のゴルフシューズ市場で、PAYNTRが一気に存在感を高めた最大の理由でもある。

柔軟に方向転換できること。無駄を引きずらず、良いと思ったらすぐ試すこと。

それは、巨大企業には難しい判断だ。多くの承認や調整を必要とする組織では、スピードそのものが失われてしまう。

しかし、PAYNTRは違う。

小さなチームだからこそ、ゴルファーの声やテスト結果を、設計に即座に反映できる。この機動力が、履いた瞬間だけでなく、ラウンド中の安定感や再現性として返ってくる。

PAYNTR Golfは急成長を遂げているとはいえ、多くの人が「小規模な企業」と捉る規模にとどまっている。

フルタイムの社員は数名、いくつかの業務は外部委託。それでも、そこには強い意志がある。

大手ブランドが、ほぼすべてのプロジェクトで複雑な承認プロセスを必要とする一方で、PAYNTR Golfチームの俊敏性は、即座の対応を可能にしている。

今年初め、ジェイソン・デイがワニ柄の特別仕様「Match Day」を着用すると、インターネット上では「どこで買えるのか」という声が一気に広がった。

それからわずか4か月後、そのシューズは実際に一般販売される。予想外の展開は、結果としてPAYNTRにとってその年を代表する成功リリースのひとつとなった。


PAYNTR GOLFのクラシックデザインを採用したスパイクレスゴルフシューズの側面

これは、大手ブランドであれば1つの製品サイクル全体を要していたであろうプロセスだ。

しかしPAYNTRの俊敏性により、特別なプロジェクトであっても、わずか数か月で店頭に並べることができた。

2〜3年先を見越して計画を立てなければ商品を市場に投入できない──そんな長いリードタイムに大きく依存している業界において、これは前例のないことだ。

より良い製品を、より良いタイミングで消費者へ。PAYNTRの違いは、ここでもはっきりと現れている。


設計にまで踏み込むアスリートの関与

PAYNTR GOLFのデザインチームがゴルフシューズの設計資料とサンプルを確認しながら開発検討を行っている様子

多くのゴルフシューズブランドにも、トップアスリートとの契約はある。だが、その関わり方には大きな差がある。

一般的なのは、完成に近いデザインを見せて「これでどう?」と確認するだけの関係だ。

アスリートは最終チェック役。良くも悪くも、開発の中心にはいない。

PAYNTRは、その真逆を行く。アスリートは“広告塔”ではなく、設計の一部だ。

ジェイソン・デイとともに作り上げた「Speed Classic」シリーズは、その象徴と言える。

履き心地、歩行時の感覚、スイング中の足裏の安定感──そうした細かな要素を、実際のプレー感覚をもとに何度もすり合わせてきた。

「今のジェイソン・デイとの関係、そして本当の意味での共同作業は、本当に素晴らしいものだ」とグランシーは語っている。

「私たちの強みは、ブランドを本当に体現してくれるプロやインフルエンサーとパートナーを組める点にある」とグランシーは続ける。

「パートナーたちは、毎シーズンただシューズが詰まった箱を受け取るだけの存在ではない。新しいプロジェクトや試作段階から関わり、設計に意見を出し、方向性を示し、実戦で履き込んで検証する役割を担っている。」

現在進行中の、新たなシグネチャーモデルのプロジェクトも同じだ。

名前はまだ伏せられているが、ただロゴや名前を載せただけのモデルにはならない。

実戦で磨かれたフィードバックをもとに、細部まで作り込まれていく。

この関係性が意味するのは、流行に乗っただけの限定モデルではなく、ゴルファーの足元で“本当に機能する”一足。

アスリートがテスターになり、設計者になる。そのプロセスこそが、PAYNTRのシューズに説得力と再現性を与えている。


ジェイソン・デイが屋内施設でPAYNTR GOLFのゴルフシューズをテストしている様子

PAYNTRが目指しているのは、誰にでも合う平均点の一足ではない。そのアスリート、そのプレースタイル、その感覚に合わせた“最適解”を形にすることだ。

グランシーが語るコラボレーションは、単なる意見交換ではない。

積極的に求め、深く踏み込み、設計にまで落とし込む。なぜなら、トッププレーヤーほど、足元の違和感や微差に敏感だからだ。

ジェイソン・デイ、そして2026年に合流予定の世界クラスのチーム──彼らのフィードバックは、表面的な調整では終わらない。

履き心地、踏み込みの感覚、長時間歩いたあとの安定感。そのすべてが、設計の“核”としてシューズに刻み込まれている。

「それこそが、私たちの製品を特別なものにし、PAYNTR Golfのシューズを選ぶゴルファーに大きな信頼感を与えている理由なんだ」

そして、世界最高峰のアスリートたちがここまで深く関わることで、その影響はPAYNTRが生み出すすべてのシューズに行き渡っていく。

PAYNTR Golfのシューズは、世界最高のゴルファーのために作られている。そして、これからそうなりたいと願うゴルファーのためにも作られている。

それこそが、実際の形として表れたPAYNTRの違いだ。


ジェイソン・デイがPAYNTR GOLFのゴルフシューズ開発サンプルをチェックするデザインレビュー風景

購入前から購入後までの体験を大切にする姿勢

製品の良し悪しは、顧客をどう扱うかによって決まる。

なぜならPAYNTR Golfは、単にゴルフシューズを売っているのではない。ブランドそのものを売っているからだ。

何十年にもわたってこの市場を支配してきたフットジョイやアディダスのような既存ブランドよりも選ばれるためには、試してみる理由をすべて提示しなければならない。

その背景にあるのが、徹底した顧客体験への向き合い方だ。

PAYNTR Golfが、これまで一度も返品を拒否したことがないのを知っているだろうか。

ほんのわずかではあるが、シューズを返品しようとしたゴルファーを、PAYNTRが止めたことは一度もない。

電話やメールで直接対応できる専任のカスタマーサービス担当者もおり、ゴルファーが最初にPAYNTR Golfを体験する瞬間が、必ず良いものになるよう徹底している。

自社製品の品質に本気で自信を持っているなら、顧客への向き合い方はこうなる。

明らかに履き込まれたPAYNTR Golfのシューズを送り返しても、理由を問われることなく受け取ってもらえる。

それこそが、PAYNTRの違いだ。


PAYNTR GOLFの社内スタジオでゴルフシューズ撮影が行われている様子

PAYNTRが他と決定的に違う理由

話を、最初に戻そう。

小さな違いが、結果を変える。

グランシーとフォーシーは、それぞれのフットウェアの歩みの中で、何が機能し、何が機能しないのかを学んできた。そして、その中で見えてきたのが、長く影響を残す「小さな要素」だ。

それらすべての小さな要素を積み重ねたとき、本当に特別なことを成し遂げるチャンスが生まれる。

次に(あるいは初めて)PAYNTR Golfのシューズを履くときは、ぜひ一度、細部に目を向けてほしい。

インソール、アイレット、箱の仕立て、レザーと接着剤の匂いまで。

PAYNTRが“完璧なゴルフシューズ”を作ることに、取り憑かれたかのように向き合っていることは、私にははっきりと伝わっている。

そしてそれは、あなたにも伝わるはずだ。

それが、PAYNTRの違いだ。


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