飛距離重視のボールはスピンをある程度犠牲にし、スピン重視のボールはある程度飛距離を妥協しているのが普通だろう。これは新世紀になっても変わることがない事実だ。

そして、REACTIVウレタンを採用したブリヂストンの2020モデル、TOUR Bボールが糸巻きバラタボールを彷彿とさせる可能性があることも事実だ。

ツアーレベルのボールで続いているある種の常識になっていることは、「X」がないものと付いたモデルがあること。

一つはソフトでスピンはかかるが、距離がそこまで出ないモデルで、もう一つは硬くてスピンは少ないが、距離が出るというものだ。

Pro V1とPro V1x、TP5とTP5X、そしてZ-STARとZ-STAR XVを思い浮かべると、合点がいくだろう。

そんな中、ブリヂストンがいよいよこの常識を打ち破ろうとしている。実際のところ、ニューTOUR Bのラインアップは、本当にボールを変えるボールになるかもしれない。

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革新 vs 刷新

過去5年で最高の革新的ゴルフボールを挙げてみよう。

はい、時間切れだ。

もしトゥルービスやトリプルトラック、あるいはテーラーメイドの施策を思い浮かべたのなら、お付き合いいただいたお礼を言いたい。

その辺りは、コスメや見た目の話で、ボールスピードやスピン性能、その他の性能とは無関係。マットカラーも関係ない。

この5年間、それ以上かも知れないが、ボール性能の最大の変化は、全てスペックに関わることだ。

各メーカーは、ボールスピードを上げたりスピン量を増やしたり、あるいは打感を柔らかくするために、あの手この手でボールを柔らかくしたり硬くしたりしている他、空力と弾道のためにディンプルパターンを調整することもできる。

これらはすべて重要ではあるが、大きな飛躍とまでは言えない。

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忘れたわけではないが、ブリヂストンは売上300億ドルを超える巨大タイヤメーカーで、900人以上のポリマーエンジニアを抱えている。

昨年この巨大企業は、9億3000万ドルをゴム技術の研究開発に費やした。ブリヂストンゴルフはその一部で、ゴルフボールに関する800件以上の特許と以下を含めた多くのイノベーションを保持している。

・1994年 – プリセプト EV Extra SpinはPGAツアーで使用された初のソリッドコアボールの一つでニック・プライスの活躍に貢献。

・2000年 – ナイキのツアーアキュラシーTW Editionはブリヂストンがタイガー・ウッズのために製造した革新的なソリッドコアとウレタンカバーが特徴のボール。

・2009年 – B330 RXは、ツアーレベルでは初となるローコンプレッションボールで、ブリヂストンによると模倣品が増えているようだ。

では、2020年のイノベーションとは何なのだろうか?飛距離といえばコンプレッションと空力で、スピンといえばレイヤーの組み合わせが全て、サッカーボールのような見た目は単なるコスメだ。

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「本当に飛ぶボールなどあり得るのか?」と言うのはブリヂストンゴルフのボールマーケティング・マネージャーのエリオット・メロー氏。

「マーケティング視点で飛ぶというわけではなく、パフォーマンス的側面と、それ以上にアプローチでスピンがかかり飛ばしたいときは低スピンになるという点で本当に飛ぶボールで、そこに操作性とフィーリングの良さを注入することなどできるだろうか?」

飛距離とスピン性能は両立するのか?これはかなりの難題だが、ブリヂストンはこの2つを別々に考えることで両方を高めたという。それがREACTIVウレタンだ。



 

REACTIVとは?

化学者でもない限り、化合物はクイズ番組の難しい答えのようなもの。基本的にREACTIVは、ある種の空想を生み出すウレタンの改良版といえる。

「空想」とは、ティーショットで飛距離を稼ぎつつ、ショートゲームでスピンがしっかりかかるボールであり、グリーンで最高のスピンを実現するのにドライバーで飛んで曲がらないボールのことだ。

「粉末をウレタンに揉み込むだけで、それを新素材と言っているわけではない」とメロー氏。「カバーの製造工程が大幅に変わったということだ」。

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REACTIVは、打つクラブによってボールがつぶれる時間を変えることで、まさに2つの要素を実現している。

「ドライバーショットのようにスピードが必要な時は、ボールがつぶれている時間が短く、初速が上がりボールも速くなる」とメロー氏。

「逆に、アイアンやウェッジでは、つぶれる時間は実際にそれよりも長くなる。こうすることで、ロフトと溝を効率的に使えるようになる」

簡単に言うと、ドライバーショットの時はボールのカバーが硬いような反応となり、ウェッジで打つ時はソフトカバーのような反応になるということだ。

「従来のウレタンだと、カバーをソフトにすることで高スピンを実現するボールを作れたが、ドライバーでの初速と飛距離という点で大きな課題があった」とメロー氏。

「REACTIVは、それぞれに特有なショット、番手ごとそして個々のスイングによってインパクト時間がカスタマイズされる」。

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ではこの素材にはどんな特徴があるのだろうか?デモ動画では、ブリヂストンでは、REACTIVウレタンが一般的なウレタンとどのように異なるのかを、それぞれの素材で作られた球体を硬い平面に落とすことでシミュレーション。

これは5ヤードと10ヤードのショット時のインパクトを想定したものだが、REACTIVウレタンの方はほとんどバウンドしない。

むしろ、平面に当たるとほぼ勢いがなくなり、一般的なウレタンのツーバウンド目前に完全に止まるのだ。

ところが、ドライバーショット時のインパクトを想定して高いところから両方の球体を落とすと、上記とは状況が入れ替わり、REACTIVウレタンの方がバウンドするようになる。全く逆になるのだ。


 

驚きの性能テスト結果

ここでは、みなさんがビックリすることを紹介しよう。

聞いたことが正しいのかブリヂストンにダブルチェックした方が良いと思い、実際に再確認したことだ。

では…。

ブリヂストンによると、4モデルのボール(Tour B X、XS、RX、RXS)全てを通じて、タイガー・ウッズ、ブライソン・デシャンボー、マット・クーチャーから皆さんや私、そしてハンディ23のゴルファーまで全てのゴルファーにおいて、誰にとっても同じパフォーマンスの結果が得られたという。

2018年モデルのTOUR B各モデルと比較して、ドライバーでのボールスピードが0.67m/sほどアップする一方で15ヤードのピッチショットではスピンが350prm以上増えたというのだ。

この結果はロボットテストでも変わらないというのがブリヂストンの回答。

どうやら、ブリヂストンのTOUR Bシリーズでは、どんなコンプレッションの特性やスピン性能でも、どのようなプレーヤーでどのくらいのスイングスピードでも、そしてハンディキャップがいくつでも、このカバーを採用すると同じ効果が得られるということになる。

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「これが今までと違うところだ」とメロー氏。

「これまでは、XSでスピンがかかるのは、ソフトな素材を使っているからと言ってきた。しかし、あらゆるレベルのゴルファーによるテストで、全てのボールにおいて全く同じパフォーマンスの向上が見られたということは、それだけREACTIVが優れた素材であるということを物語っている」。

もう一度みなさんに読んでもらえるように、もう一度書くことにする。

ロボットと実際のゴルファーによるテストにおいて、スイングスピード38m/sでハンディ20くらいのゴルファーからタイガーやデシャンボー、そして彼等くらいのスイングスピード(53.6m/s以上)のゴルファーに至るまで、全員がドライバーのボールスピードが0.67m/s上がり、15ヤードのピッチショットではスピンが350prm程度増えたのだ。

となれば、私たちも試さずにはいられないだろう。

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既に、みなさんやみなさんのお知り合いがテストしている可能性もある。

というのも、ブリヂストンではこれまでに「白箱」のプロトタイプを2万箱以上も積極的に配布。「こちらのボールを打ってみてください」ということ以外は、テスターに目的など何も伝えずに渡したという。

そしてメロー氏によると「テスターのほとんどは、私たちがどんな目的でボールを設計したのかを全く知らないのにも関わらずにREACTIVの性能を何度も話してくれた」という。


 

ブリヂストン TOUR B XSはタイガー使用球

ブリヂストンが、プロトタイプのREACTIVウレタンボールの製造を始めたのは約4年前で、2018年初頭からはウッズが開発プロセスに参加するようになった。

そしてウッズのボールでテスト中のXSと2018年モデルのXSのテストにおいて、ウッズは何とドライバーのボールスピードで0.72m/sアップし短いアプローチではスピン量が317rpmも増したという。ヒーロー・チャレンジとプレジデンツカップでは使用する予定だったようだ。

結局、ウッズは使わなかったが、クーチャーとデシャンボーはオーストラリアの試合で使用し、クーチャーはこのボールで勝利まで手にしている。

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SNSをチェックしている人なら、ブレンダン・スチールがソニー・オープン・イン・ハワイでXSを使い優勝まであと一歩に迫ったことはご存知だろう。

この大会では同社と契約外の3、4選手が同じくXSを使用。レキシー・トンプソンも今年最初の大会でこのボールを使いトップ10入りを果たし、ウッズもファーマーズ・インシュランス・オープンをこのボールでプレーする予定となっている。

そしてシニアツアー開幕戦では、フレッド・カプルスとロッコ・メディエイトがRXSのイエローバージョンを使い、カプルスは惜しくもプレーオフで敗戦したが、ブリヂストンと関係を持つ、野球で殿堂入りを果たしたジョン・スモルツは、先週末に開催されたダイアモンド・リゾート・トーナメント・オブ・チャンピオンズのセレブリティ部門で優勝している。

「ぶっちゃけると、以前にメディエイトとカプルスにはRXとRXSを使ってもらおうとしたことがある」とメロー氏。

「しかしRXは飛ぶけど止まらない、RXSは止まるけどそこまで飛ばないというような課題があった。ところが、今回のRXSは、飛距離が出るのと同時にグリーンで止めることができる」。

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そして、ご心配な方のために伝えると、ブリヂストンによれば、皆さんや私のような一般アマチュアが量販店などで買えるボールと、ウッズ、カプルス、メディエイト、クーチャー、デシャンボーが使うボールは全く同じとのこと。

特別仕様のボールは、ブリヂストンのラインナップにはないという。


 

目指すはシェア奪還

ブリヂストンがボールシェアで第2位だったのは、それほど昔のことではなかった。

ところがそこから、キャロウェイにあっという間に追い越され、テーラーメイドにもこの一年半で若干リードを許す事態になっている。

現在は、ブリヂストンとテーラーメイド、そしてスリクソンがシェアの3〜5位を争っている状態だ。

そんな中、ブリヂストンのダン・マーフィーCEOはREACTIVとニューTOUR Bシリーズがその低迷を打破する大きなステップになると確信しているようだ。

もちろん商品ありきだが、商品コミュニケーションにも投資する予定だ」とマーフィーCEO。

「新しい広告に新しいパッケージ、特にカプルスとRXの新しいツアーアクティビティなど取り組むつもり。No.2に復活するという意気込みを持っている」。

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販売戦略的に見ると、硬めのTOUR B XとXSはPRO V1とV1x、TP5とTP5X、そしてZ-STARとZ-STAR XVが競合。ソフトなTOUR B RXとRXSは、クロームソフト、クロームソフトXが対抗馬となる。

となると、ツアーレベルのボールが4モデル(競合は2モデルのみ)もあることで混乱を招かないのだろうか?

「もしも私が他社のスタッフだったら、2モデルしかないことが気になると思う」とメロー氏。「確かに我々は4モデルをラインナップしているが、実際のところ、各ユーザーは2モデルから選ぶことになるとだろう」。

ここで話は、誰にどんなボールが合うのかということになる。スイングスピードが47m/sならXかXSが合うだろうし、それ以下ならRXかRXSが良いだろう。

「4モデルは直ぐに2つに絞られる」とメロー氏。「そこからは、他のボールと同じように、より飛距離を取るか、よりスピンがかかる方を取るかということになる」。

マーフィーCEOが言うように、今後はREACTIVのPRが大変重要になるだろう。マーケティング視点で言えば、素晴らしい内容でも、ゴルファーが内容を理解してそれに従って行動するように簡単に伝えることは難しい。

今年はブリヂストンによるREACTIVメインの広告やSNSでの露出が増え、ツアーでの優勝に加えウッズのさらなるメジャーVも大切になってくるだろう。

しかしブリヂストンが、REACTIVや4モデルのラインナップと誰にマッチするのかを伝えようとする中で、ウッズだからこその問題に直面する可能性がある。

つまり、ウッズのファンは、自分に合わないと分かっていてもウッズのボールを欲しがるということだ。

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「これまでを振り返ると、我々のお客様はフィッティングを理解するテクノロジーに造詣がある人たちで、自分のゴルフに合うボールを求めているが」とメロー氏。

「ウッズのコアファンは、ウッズが使っているという理由でウッズのボールを購入している」。

ブリヂストンでは、改良されたRXとRXS、そして新たに再構築した(革新的なスローモーションでのスマホ動画フィッティングを含む)フィッティングプログラムにより、ウッズファンが自分に合うボールに興味を示してくれることを望んでいるのだ。


価格と発売時期、そしてまとめ

ブリヂストンの新しいREACTIVウレタン TOUR B XとXSボールは、クラシックホワイト(オプティックイエローは日本で発売され、北米での発売はニーズ次第)が、TOUR B RXとRXSボールはホワイトとイエローがラインナップしている。

全4モデルともに価格は昨年同様44.99ドル/ダースで、縁起が良いかは分からないが2月14日のバレンタインが発売日だ。

ブリヂストンがボールのシェアでNo.2(そしてNo.3)の地位を陥落したとなると、その理由を見つけたくなるが、ボールの性能が落ちたというわけではない。

ブリヂストンは、一貫して高性能で高品質の製品を製造しているにも関わらず、キャロウェイとテーラーメイドにシェアを大幅に奪われているのだ。

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効果のない情報伝達(またの名をマーケティング)や再導入したボールフィッティングの急な縮小、経営層の課題、そしてその他諸々の全てがブリヂストンにとって裏目に出たが、ゴルフクラブが多く売れることに伴ってボールが多く売れるということは、決して偶然などではない。

相関関係があるだけで原因は不明だが、ボールシェアのトップ5の中で、ブリヂストンだけがクラブ市場で存在感を発揮できていないのだ。

ちょっと考えてみて欲しい。キャロウェイはとんでもない量のゴルフクラブを販売しているから、ゴルファーも彼らのボールを大量に使うことになっているのだ。

ブリヂストンとしては、自分たちよりも劣るボールが、自分たちを追い抜いてシェアを奪っているというわけ。これって、クラスのアホに彼女を取られるようなものだろう。

これがブランド力というものだ。

そして諸君、これこそがブリヂストンがぶち当たっている壁なのだ。