PXGブランドに魅力を感じながらも、アイアンの価格から富裕層向けだと諦めているゴルファーは多い。

奥方にバレないようにこっそり買える代物でもない。PXGの顧客のとって価格は大した問題ではないだろうが、価格面で今まで諦めていたゴルファーがいることも事実だ。

手の届きそうな価格の商品の登場はそんな彼らの心を揺さぶることだろう。

 

それを踏まえて、0211アイアンを紹介する。

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かなり価格を下げたことで、新しいPXGアイアンがより多くのゴルファーにアピールすることは間違いない。

そこには今までブランドに対して懐疑的だった人々も含まれるだろう。入手のしやすさと「値ごろ感」は、ブランドのイメージを新たなものにするはずだ。

もちろん、より求めやすい価格にするため多少のトレードオフは生じる。しかし、PXGはパフォーマンス面での妥協はしていない。

「素晴らしい製品であることに変わりはありません」と創業者のボブ・パーソンズは述べている。その品質、革新性、パフォーマンスにおける指針は保ったままだ。

PXGの他の製品と同レベルのパフォーマンスを期待できる新たな主力級アイアンを創り上げるのにPXGが重ねた努力は計り知れない。

そう考えれば、0211が0311から多くを踏襲していることも納得がいく。そこで、まずこの二つのアイアンの類似点を見ていくことにしよう。



構造はほぼ同じ

相違点は後述するとして、構造的には明らかな類似点がある。0211は0311 GEN2と同じフェース素材(高強度HT1770マレージングスチール)を用いている。

同じく0311アイアンGEN2で使われた中空内部の樹脂素材COR2ポリマー素材と併せることで、業界一の極薄フェースを可能にし、ボール初速を向上させた。

0311 GEN2と同じく、フェースの内側を外周に沿って切り抜くカットアウトデザインが採用されている。

二つの部品の溶接線を(フェース面にではなく)クラブの外周に持っていき、ヘッド周辺部に重量を最適配分した。

フェースの視覚的なサイズを変えることなく、スイートエリアを増すことで、寛容性を大幅に向上させた。

 

感覚に訴えかける打音と打感

音や感触に関しては、あくまで主観の問題であり、個人的解釈によるものではあるが、PXGいわく、新しいモデルもGEN2アイアンと同じく最高の打音と打感を有するという。

類似点がわかったところで、これまでのPXGアイアンと0211の相違点について述べることにしよう。

 

ボディは鋳造

鍛造のGEN2と違い、0211はインベストメント鋳造431ステンレススチールのボディ。

PXGでは初お目見えとなるこの素材はソリッドな感覚をもたらすだけでなく、強い耐久性を持ち(ゴルフバッグ内でのクラブのぶつかりにも強い)、耐食性にも富む。

PXGは、鋳造の工程はより効率的であると表現している。効率的というのはつまり、費用を抑えられるという意味の婉曲表現だ。

0211アイアンがこれほどまでに価格を下げることができたのは、鍛造から鋳造への工程の変化に因るところが大きい。

鋳造アイアンは鍛造に比べてフィーリングが劣ると考えるゴルファーが多いが、PXGのチーフプロダクトオフィサー、ブラッド・シュバイゲルト氏は0211でその認識が変わることを期待している。

0211のように、より複雑で、複数の部品や素材からなる構造では、鍛造でないことはそれほど重要ではない。

平均化のための独自の製造法により、鋳造と鍛造のフィーリングの違いは基本的にほんのひと押し程度にすぎないとPXGは考えている。結局のところ、感覚には個人差があるわけだから。

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消えたウェイト

今までPXGのクラブについて書いてきて、何度も出てきたフレーズ「特徴的なウェイト」、今もまた書いたわけだが、今回そのウェイトの不在が際立つ。

ウェイトネジを外すことで、0211ではフィッティングの自由度を少し失ったものの、チップ重量など従来の方法で最適なスイングバランスを導き出すことは、フィッターやビルダーには容易なことだ。

従来のPXGアイアンの外観を求めている人にはガッカリだろうが、それ以外の人はこの変化を歓迎することだろう。

 

革新的ヘッドデザイン

0311 GEN2アイアンは全4モデルで展開している(T、P、XF、SGI)。0211は1種類の革新的デザインヘッド。ファクトリーデザインのセットだと思えばよいだろう。

ロングアイアン、具体的に言うと4番アイアンは最もやさしいXFに近い。長めのブレードと強めのオフセット、広めのソールによって重心位置が後退し、高打ち出しが得られる。

ショートアイアンは0311 GEN2 Pに最も近い。よりコンパクトで一般プレーヤー向けの顔。その他のアイアンのデザインはこの2種の間で自然かつ滑らかにシフトさせている。

シュバイゲルト氏によると、全体的なデザインゴールは「寛容性とプレーのしやすさ」にある。

長さ、ロフト、ライの各スペックは0311 GEN2 Pアイアンと全く同じだ。

1種類の革新的にデザインされたセットのほうが、何種類ものヘッド形状を展開するよりも、より効率的なデザインアプローチだといえる。

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低くなった慣性モーメント

寛容性が少し減るということはもちろんセールスポイントとはいえないが、0211はより操作性が高いと言って長々と説明しなかったPXGに敬意を表したい。

事実、0311 GEN2に比べて0211のMOI値は少し下がっている。

だがこれは決して新しいモデルに寛容性がないと言っているわけではなく(寛容性は十分ある)、0311にあったタングステンウェイトがなくなったことで、MOI値が7〜10%低くなったというだけのこと(0311のどのモデルと比較するかで数値が異なる)。

PXGはCOR2構造の恩恵により、新たなこのセットが競合を脅かす存在になると信じている。

 

シャフトの選択肢〜アップグレードは別料金

PXGとしては初めて、0211では限られたシャフトをセットとして販売する。

スチールシャフトでは、トゥルーテンパーの新しいエレベートが標準装備。

エレベート・スタンダードは95g(フレックスはRかS)で、アイアンゲームにスピンの手助けが欲しいプレーヤーのため、高弾道になるよう設計されている。中弾道、中スピンのエレベート・ツアー(115g)もSとXフレックスで選択可。

エレベートシャフトはいずれもVSS (Vibration Suppression System=振動抑制システム)テクノジーを採用している。

新センシコア設計により、VSSはエレベート・スタンダードで71%も振動を抑えることができ、VSS PROを搭載したエレベート・ツアーでは56%の振動を抑制する。

カーボンシャフトは、三菱から発売されたばかりのMMTを採用。軽量〜中量のパラレルチップは、三菱によると中打ち出し、中スピン。

フィッターおよびバイヤーはもちろんPXGの全シャフトラインナップから選ぶことができるが、上記の2種以外を選んだ場合は1本につき(スチール、カーボンいずれも)追加料金$25がかかる。

その方針は理解できるものの、今までPXGのほとんどの売上がカスタムフィッティングによるものだったことを考えると、少し矛盾も感じる。

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PXGにとって0211とは

PXG効果の継続について述べた以前の記事で、ブランドの長期的な成長は、メインストリームの周辺に居続けられるかどうかにかかっていると推測した。

クラブごとの小売価格〜スチールで$195、カーボン$210〜を提示したPXGはまさにこの0211の発売によってそれを試みているように思える。

三浦技研やEPONなど日本国内市場向けアイアンと同じ価格帯のPXGにどれだけの需要があるのか?想像もつかないが、見守るしかない。

PXGの長期的成長についてボブ・パーソンズに尋ねてみた。どこまで拡大する?

「わからない。考えたことがないよ。ほんとうに」「私はただ、ゴルファーのために正しいことをする、そのことだけを考えているんだ」。

その点でいうと、0211の提案がゴルファーにとっての正しいことかどうかは賛否両論あるだろう。

しかし、ブランドを入手しやすくし、多くのゴルファーのキャディバッグにPXGのクラブが入る可能性を広げたという意味で、一歩前進したことは議論の余地がない。

価格を下げて敷居を低くしたことで、PXGの持つエリートや憧れの対象のイメージは崩壊しないのだろうか。

パーソンズはメルセデスを例に出して、そうはならないと言う。

ゴルファーは車に例えるのが好きだ。だいたいは新製品をリリースする周期についての言及だが、今回はそうではない。

「AクラスとCクラスがあることで、富裕層の顧客が抱くメルセデスの魅力が半減したという証拠はどこにもない。Sクラスも順調に売れているし、賭けてもいいがマイバッハだってそれなりに出ているはずだよ」。

ボブ・パーソンズは「PXGはラグジュアリーブランドですが、あくまで手の届くラグジュアリーなのです」と言うが、価格が低いPXGといっても安くはない。

ラグジュアリーがメインストリームの少し上と共存してはいけない規定はないが、こういうケースについては、ナイキの行動原則ガイドに従うのがいいだろう。

最終的に、「決めるのは消費者だ」。