2025年モデルのスリクソン「ZXi」ドライバーは、一見すると相反するように思える3つの特徴を、見事に並び立てたクラブだ。(※日本では2024年11月に発売されている)
スリクソン「ZXi」ドライバーは、少なくとも「ここ10年で最も優れたドライバー」の一つと言えるかもしれない。新たに採用されたフェース素材と独自のフェースデザインにより、これまでにない性能を実現。
さらに、3つのモデルがそれぞれ明確な個性を持ち、ゴルファーのニーズに応える選択肢を提供している。外観も今年登場したクラブの中でトップクラスの完成度を誇り、見た目と性能を両立した仕上がり。
とはいえ、新しいスリクソン「ZXi」ドライバーが今年のドライバー市場を席巻するかと言えば、それは難しいかもしれない。テーラーメイド、キャロウェイ、PING、タイトリスト、コブラといった大手メーカーにとって、スリクソン「ZXi」は大きな脅威にはならない。
しかし、スリクソンはこうした評価をあまり気にしていないようだ。多くの新興ブランドと同様に、スリクソンはドライバー市場全体で大手5社が占める90%以外の約10%のシェアをターゲットにしている。
この手のニッチな挑戦における成功の鍵は、大きな飛躍ではなく、一歩一歩着実に進むことにある。
では、最初の結論に焦点を当てよう。スリクソンはこれまでも高性能なドライバーを数多く手掛けてきたが、私の記憶の限りでは、今回のモデルが“初めて本当にゴルファーの心を惹きつける”魅力を備えているように思える。
2025年のドライバー試打リストに加えるべきか?
2025年1月6日に開催された米男子ゴルフツアー『ザ・セントリー』で、ヒデキ・マツヤマが優勝を果たしたことにより、スリクソン「ZXi」シリーズへの注目度がさらに高まっている。
むしろ、これを試さないなんて、ドライバーを持たずにティーショットに挑むようなもの。そんなミス、絶対したくないよね(笑)
素材による初速
スリクソンは、もともと大げさな表現を好むブランドではない。派手なマーケティングには頼らず、「革新的」や「ゲームチェンジャー」といった言葉で目を引くワードで煽りをいれるタイプでもない(例外があるかもしれないけど…)。
この慎重な姿勢は、堅実なブランディングには適しているものの、ドライバーカテゴリーでは、話題性の高さにおいて他の大手ブランドの後塵を拝することになる。だからこそ、新たに開発されたフェース素材や新しい『可変厚フェース』デザインにあえて焦点を当てるのは、まさにスリクソンらしい実直なアプローチだと言える。

その新素材とは『Ti72Sチタン』で、日本とカリフォルニアに拠点を置くスリクソンのエンジニアによって開発されたものだ。
「チタンから引き出せる性能の限界を追求したが、耐力や耐久性をさらに向上させることができた」と、スリクソンの技術部門責任者であるダスティン・ブレッケ氏が我々MyGolfSpyに語ってくれた。「質量を減らしつつ、『可変厚フェース』の性能もさらに引き上げることができた。」
「フェース」はドライバーのクラブヘッドの中でも特に重い部分の一つだ(高い強度を必要とするゆえに)。だからこそ、軽量化しつつ強度を高められるなら、性能向上の大きなチャンスになる。
「Ti72S」は従来の「Ti51AF」よりも軽量かつ高強度であるため、フェースをさらに薄くできた。当然薄いフェースはボール初速を向上させる鍵となる。『i-Flex』と『リバウンドフレーム』で実現する初速
すべてのメーカーが、ボール初速を高めるテクノロジーの引き出しをいくつか持っている。その中心となるのが、フェースのたわみや『可変厚フェース』デザインだ。その目的は2つ。
①センターヒット時のボール初速を最大化すること、そして②ミスヒット時のボール初速の低下を最小限に抑えることだ。効果の差はあるかもしれないが、すべての技術が目指す先は同じ。インパクトの瞬間にボールをできるだけ速く放つことだ。その後はボール次第だ。クラブはすでに役目を終えている。

「20年前は、金属板から打ち抜いた均一な厚さのフェースを使用していた」とブレッケ氏。「それでもそれなりのボール初速は出たが、効率的とは言えなかった。性能向上には繋がらない無駄な質量が多かったからだ。」
「AI」を軽く見る人もいるかもしれないが、人工知能は、100人の技術者が100年かけて試行錯誤するような、最適化された『可変厚フェース』パターンを短時間で作り出すことができる。ただし、AIが手探りで設計しているわけではない。
プレーヤーのインパクトデータ、Arccosで収集されたラウンドデータ、その他の人間による入力情報を活用している。これら膨大なデータをもとに、スリクソンのスーパーコンピュータが導き出したのが『i-Flex(アイフレックス)』だ。「新しいTi72Sチタンは、私たちにとって調整ツールのようなもの」とブレッケ氏。「これまでで最も薄いフェースを実現したことで、フェース中央でのインパクトで性能をさらに向上させることができた。」

内部から見ると、『i-Flex』フェースパターンは、スタイリッシュな大文字の「I」にも見えるし、あるいは『グリーンランタン』(DCコミック出版のアメコミのスーパーヒーロー)の「パワーリング」にも見える。
どちらにせよ、パワーを引き出す秘密兵器っぽい雰囲気は間違いない。スリクソンは、この『i-Flex』を第4世代の『リバウンドフレーム』で支え、さらなるボール初速を実現している。『リバウンドフレーム』は、ヘッドの前方に“2つのトランポリン”を作り出す仕組みだ。1つ目のトランポリンは、薄い『i-Flex』フェースとそれを支える剛性のあるフレームから成り立つ。
そのフレームの背後には、2つ目のトランポリン(=柔軟ゾーンが配置され、さらにその後ろにもう一つの剛性ゾーンを配置)がある。この構造を“ダブルトランポリン”と考えてみてほしい。「『i-Flex』はフェースそのものに焦点を当てている」とブレッケ氏。「『リバウンドフレーム』は、全体的なたわみの特性を最大化することを目的としている」

3つの新しいスリクソン「ZXi」ドライバー:スピンが鍵
ゴルフ業界は「標準化」を避ける傾向がある(シャフトのフレックスがその代表例だ)が、ドライバーのネーミングについてはある程度「標準化」されてきたようだ。
スリクソンの2023年モデルでは、競技志向者(上級者)向けの「ZX7」、寛容性の高い「ZX5」、そして初めて低スピン設計を採用した「ZX5 LS」がラインナップに加わった。2025年を迎え、業界全体で「スタンダード(Standard)」「マックス(MAX)」「LS(Low Spin)」というネーミングが一般的になった。スリクソンもこれに倣い、新しい「ZXi」「ZXi MAX」「ZXi LS」ドライバーを発表した。
新旧モデルの位置づけを整理すると、「ZXi」は従来の「ZX7」の後継、「ZXi MAX」は「ZX5」の後継、そして「ZXi LS」はそのまま低スピン設計の「LS」となる。
「ZXi」は最も幅広いゴルファー層に適したモデルで、「ボール初速」、「MOI(慣性モーメント)」、「寛容性」、「低スピン」性能のバランスが取れた設計だ。先週のTGLデビュー戦ではシェーン・ローリーもこのモデルを使用していた。
「ZXi MAX」は名前の通り、「寛容性」に特化したモデル。スリクソン史上最高のMOIを誇り、ミスショットにも強い設計となっている。超スコア改善型(初心者から中級者)の幅広いゴルファーに安心感を与える。
ただし、フェース素材は従来の「Ti51AF」を採用している。スリクソンによれば、この素材は現在のドライバーデザインと非常に相性が良いとのことだ。「ZXi LS」は、2023年にMyGolfSpyの性能テストで意外な評価を得た「ZX5 LS」の後継モデル。
低スピン設計で、ヘッドスピードが極端に速くなくても積極的なスイングをするゴルファーに最適だ。しかし、このラインナップをさらに魅力的にしているのは、スリクソンのフィッティングに対する独自のアプローチだ。
「これらはすべて、速いボール初速と最大飛距離を追求して設計されている」とブレッケ氏。「しかし、インパクト時の性能を考えると、スピンが鍵を握っている。低スピンが必要か?あるいは、スピン量を増やすことで恩恵を受けられるのか?その場合、スピン調整に伴うトレードオフに対応できるかどうかも考える必要がある。」

多くのゴルファーにとって、まずは「ZXi」から試すのが基本。このモデルは、多少の左右のブレにも対応できる設計になっている。
もしスピン量と「寛容性」がさらに必要であれば「ZXi MAX」に移行し、逆にスピン量を抑えたい場合は、「ZXi LS」を検討するといい。ただし、「LS」では「寛容性」が少し犠牲になる点を考慮する必要がある。新しいアジャスタブルホーゼル(ついに!)
調整可能な新しいアジャスタブルホーゼル、『QTSスリーブ』がスリクソン「ZXi」ドライバーに搭載された。これほど簡単に調整できるなら、私のスイングもアプリで調整できる時代が来ないかなって本気で思う。
以前のスリクソンのアダプターがダメだったわけではないが…、ただ、調整ポジションが多すぎて複雑さがあり、使いこなすには高度な知識が必要だった。

この複雑さに対してブレッケ氏は、「ホーゼルの調整機能は長い間、エンジニアの視点で設計されていた」と認めている。「『おお、こんなことまでできるぞ!』という感動はあったけど、その分圧倒的に複雑すぎた。」
新しいホーゼルは、旧モデルよりも調整幅が広がったものの、複雑さを感じることなく簡単に操作できる設計になっている。ロフトを基準にした調整システムで、0.5度刻みで最大1.5度までロフト角を上下に調整可能。
さらに、ロフト角を変えるとそれに応じてライ角も標準値からフラット方向に変化し、フェースアングルもよりオープンまたはクローズの方向に変わる仕組みだ。ゴルファーにとって直感的に使いやすいデザインが採用されている。『QTSスリーブフィッティングシステム』は、合計で12通りの設定が可能だ。
これに加えて交換可能なソールウエイトを組み合わせることで、優れたフィッターであれば、3モデルのスリクソン「ZXi」ドライバーを活用して、数十通りの調整オプションを作り出すことができる。
「ドライバーに『ドロー』と書かれていない限り、誰もがまっすぐ飛ばそうとする」とブレッケ氏。「『MAX』は若干左に寄る傾向があるが、フェースアングルの調整やその他の要素で補正することができる。我々はフィッティングを通じて解決策を提供し、ゴルファーがパフォーマンスに期待する結果をしっかりと実現できるよう目指している」
飛距離を感じさせる打音?
新しいスリクソン「ZXi」ドライバーの3モデルをすべて試してみた。その打音は決して不快ではない。ただ、1980年代のキャスリーン・ターナーが耳元でささやくような、そんな魅惑的な音でもない(笑)。
「このドライバーは音が大きいわけでもなく、奇抜さがあるわけでもない」とブレッケ氏。「ただ、以前のスリクソンのドライバーよりも特徴的な音になっているとは思う。高音域ではなく、もう少し深みのある音。しかし、音も設計上のトレードオフの一つ。ソール、ヒール、トウのウエイト配置によっては、望ましくない振動がソールに伝わることもある。」

要するに、「特定の性能を実現するために設計した結果、この音になった」ということだ。スリクソンはPINGと同じく、カーボンファイバーではなくフルチタン構造を採用している。
カーボンファイバー製のクラウンは音の特性を少し変えるため、フルチタンではやや高音寄りの金属的な「カチッ」という音が生じるのはある程度予想できる。一番わかりやすい表現をするなら、「PINGのドライバーの音に、もう少しだけ“ピン”と響く要素を加えたような音」といったところだ。
「音に関する設計では、間違った答えはたくさんあっても、正解はごくわずかだ」とブレッケ氏。「避けなければならないゾーンは存在するが、正しいゾーンにたどり着いたら、そこから先はトレードオフの問題になる。例えば、内部のリブの位置を数グラム動かしたり、フェースの向きを少し変更するだけでも音に影響が出る。」

設計では、“やりたいことと、やりたくないこと”が必ず出てくる。それをどうバランスさせるかが難しい。
とはいえ、フィッティングがしっかり合っていて性能に満足できれば、音なんてすぐに気にならなくなるものだ。正直なところ、これまでの経験で言えば、もっとひどい音のドライバーを打ったこともあるのは確かだ。
それに、一発でもビッグドライブを決めれば、どんなドライバーの音だって、最高のシティ・ポップ、マリア・タケウチの子守唄みたいに心地よく聞こえてくるもんだ。どちらが好みかな?なんて冗談はさて置き、各スペックをチェックしてみよう。

スリクソン「ZXi」ドライバー:価格、スペック、発売情報
標準モデルの『スリクソン「ZXi」ドライバー』は、右打ち用と左打ち用の両方で、ロフト角9度と10.5度がラインナップされる。
標準仕様では、交換可能なヒールとトウのソールウエイトが付属している。10グラムのウエイトをヒールに、4グラムのウエイトをトウに配置するとドローバイアスに設定され、これを入れ替えるとフェードバイアスの設定になる。標準シャフトには「Diamana ZXi50 カーボンシャフト(S、SR、R)」が採用されており、グリップは「ツアーベルベットラバー360グリップ」(バックラインなし)が標準装備されている。価格は¥85,800(税込)日本では2024年11月9日から発売されている。
※下記はアメリカのスペック
標準シャフトには「フジクラ Ventus TR Blue」(X、S、Rフレックス)が採用されており、グリップは「ゴルフプライド Tour Velvet 360」が標準装備されている。

『スリクソン「ZXi MAX」ドライバー』は、ロフト角9度(右打ちのみ)、10.5度、12度のヘッドがラインナップされている。バックには14グラムのソールウエイトを配置し、低く深い重心設計を実現している。(※日本ではロフト角9度、10.5度のみ)
標準シャフトには「Diamana ZXi50 カーボンシャフト(S、SR、R)」が採用されており、グリップは「ツアーベルベットラバー360グリップ」(バックラインなし)が標準装備されている。価格は¥85,800(税込)。
※下記はアメリカのスペック
標準シャフトは軽量の「プロジェクトX Denali Red 50」で、S、R、Aフレックスが用意されている。グリップは「ゴルフプライド Tour Velvet 360」が標準装備だ。
ロフト角12度の「ZXi MAX」レディースモデル(※日本での展開はなし)も用意されており、右打ち用と左打ち用の両方がラインナップされている(左打ち用はカスタムオーダーが必要)。
標準シャフトには「アルディラ Ascent PL 40」が採用され、グリップは「ラムキン ST Soft」が標準装備となっている。『スリクソン「ZXi LS」ドライバー』は、ロフト角8度、9度、10.5度の3種類がラインナップされている。(※日本ではロフト角9度、10.5度のみ)
標準シャフトには「VENTUS ZXi6 カーボンシャフト(S、SR)」が採用されており、グリップは「ツアーベルベットラバー360グリップ」(バックラインなし)が標準装備されている。価格は¥85,800(税込)。
※下記はアメリカのスペック
標準シャフトには「プロジェクトX HZRDUS Black」が採用され、X、S、Rフレックスが用意されている。グリップは「ゴルフプライド Tour Velvet 360」が標準装備だ。左打ち用は9度モデルのみが対応している。

新しいスリクソン「ZXi」ドライバーは、価格が549.99ドルで、1月24日から店頭に並ぶ予定だ。(※日本では2024年11月9日から発売されている。)
詳細については、スリクソンの公式ウェブサイトをチェックしてほしい。
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