これから紹介するPING(ピン)の「ブループリント T」と「S」アイアンは「AI」非搭載。そして各メーカーがこぞって使う「AI」や「最適化」「最大化」という単語はここには登場しない。

各社がクラブ設計において全てを「AI」に任しているわけではないが、やはりその「AI」の存在はとても大きい。しかし、この新しいPINGの「ブループリント」アイアンには「AI」ではなく「人間が手掛けた」という雰囲気が感じられる。

これからさらに「AI」に頼る時代へと世の中が進化していく中で、こうしたPINGの「ブループリント T」と「S」アイアンは後世に語り継がれるべきものになるかも知らない。

とは、ちょっと言い過ぎたかもしれないが、ここから先は少しだけPINGの歴史を遡り、「ブループリント」の誕生を早送りでお伝えする。「MYGOLFSPY」ならではのマニアが喜びそうな内容となっているので、是非ともこのまま読み続けてほしい。

では、始めよう!


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PINGは、今回の新しい「ブループリント」は“万人向けではない”と真っ正直に述べている。実のところ、正確無比なショットを放つゴルファー以外、ほとんど誰にも向いてはいない。しかし、これがうまいこと組み合わされたセットになったらどうだろうか?

それなら望みはあるかな。


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PING「ブループリント」アイアン:真のツアーインスピレーション

PINGは60年代後半にインベストメント鋳造を普及させた。「ANSER(アンサー)」パターはカーステン・ソルハイムの名を世に知らしめたが、その後20年間、PINGが主要メーカーにとって目の上のたんこぶになったのも1969年のインベストメント鋳造のステンレス製アイアン「カーステン 1」だった。といっても、PINGの最初のアイアンは実は鍛造だったんだけどね。

1961年、カーステンはアイアンの外周にウエイトを配する実験を始め、「PING 69 Ballnamics」を考案した。カーステンは友人から鍛造ブレードのヘッドを入手し、裏側の溝を手作業でミーリング(切削)してキャビティバックに加工した。荒削りではあったもののより軽量となった結果、実に効率よく外周に質量が置かれることとなったのだ。

では、歴史を2018年10月まで早送りしてみよう。ルイ・ウーストハイゼンが、これまでPING製品で見たことのない、マジの、本物の、正真正銘の鍛造ブレードアイアンの写真を投稿した。「これは研究開発実験の延長のようなもの」と、PINGエンジニアリング担当副社長のポール・ウッド氏は当時語っている。


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実際、他ならぬジョン・ソルハイムの反対を押し切ってのちに「ブループリント」になるものの開発をPINGに推し進めさせたのはウーストハイゼンだった。PINGのエンジニアはウーストハイゼンに4番アイアンと8番アイアンを試させた。彼がこの2本をたいそう気に入ったので、ソルハイムは渋々このプロジェクトにゴーサインを出したというわけだ。

ウーストハイゼンは、それまで使っていた2016年のPING「iBlade(アイブレード)」よりも小ぶりでコンパクトなものを切望していた。そして、それこそまさに彼が初代「ブループリント」として手に入れたものだった。しかし「ブループリント」を5年使って、彼はPINGに、まったく同じもので、ほんの少しだけ小ぶりでもコンパクトでもないものが欲しいと言ってきた。

「ブループリント T」は初代「ブループリント」のアップデート版、「ブループリント S」は2年半前の「PING i59」鍛造アイアンに代わるものだ。PINGは、「ブループリント」を「i230」アイアンと組み合わせることで、上級者が夢中になる強力なコンボを生み出すと確信している。


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PING「ブループリント」アイアン:TはTOUR(ツアー)のT

前作同様、新しいPING「ブループリント T」は、ツアーで闘う最高のボールストライカー(正確無比なショットを放つゴルファー)を念頭に置いて作られたシングルピースの鍛造アイアンだ。

「大量に販売することはない」と、PINGのデザインエンジニアリングマネージャーのトラヴィス・ミルマン氏は認めている。「これは間違いなく、精密なアイアンを必要とする領域に達したエリートプレーヤー/ツアープレーヤーに向けたクラブだ」。

PINGの言うところの「精密なアイアン」とは単純明快なものだ。ボール初速を上げたり、フェースのたわみを高めたり、距離を生み出すテクノロジーを適用する必要はない。打感や打ち出し角、スピン量、外観に、ほんの一握りの寛容性を足せば完成する。


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「ツアープレーヤーたちに新しい『ブループリント』に何を望むか尋ねたところ、ほんの少しだけ大きいものが欲しいということだった」とミルマン氏。「我々はどうやら初代『ブループリント』でやりすぎたようだ。というのは、ヘッドを小さくしすぎたということ。正直、それを聞いてちょっとショックだった。ルイですらもう少し大きいほうがいいと言っていたんだから」。

新しい「ブループリント T」は、初代「ブループリント」よりもほんの少し大きくなり、ほんの少し高打ち出しとなる(これもツアーからの要望)。ロングアイアンのブレード長は長くなり、オフセットも少し強くなる。やはり世界の最高のプレーヤーでさえ、「寛容性」は必要だということだ。

「我々は、重心(CG)と慣性モーメント(MOI)の観点から正しいことをしようとしているだけ」とミルマン氏。「それが今のトレンドだ。過去の小ぶりなマッスルバックアイアンは、メジャーツアーではあまり普及しなくなってきている」。


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新しいPINGの「ブループリント T」では、ロフト角が1度ストロングになり、従って距離も少し伸びる。だからといって、“PINGも結局ストロングロフト化かよ”と非難しないでほしい。その理由は後述するが、これは「ブループリント S」と「i230」とのスムーズな組合せに大きく関係しているのだ。


PING「ブループリント S」アイアン

前述したように「ブループリント S」は新顔で、2021年9月に発売されたPING「i59」アイアンに代わるものだ。

「i59」アイアンは、PING がこのカテゴリーでは“ぶっちぎり”と表現するMOI(慣性モーメント)を備えた複合素材のクラブだった。ただ重心が高く、ツアープレーヤーの好みとしては打ち出し角が低すぎることが問題だった。

「ツアープレーヤーたちの要望は、より高い打ち出し角とより良い打感だった」とミルマン氏。「『ブループリント S』では単一素材の鍛造を施すことでその両方が実現できる。『i59』からすると慣性モーメントはわずかに低下するが、基本的に『iBlade(アイブレード)』と同じレベルにリセットされているのは喜ばしい点だ」。


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「ブループリント S」は「ブループリント T」よりも少し大ぶりで、オフセットも少し大きくなるが、ミスマッチに見えるほどではない。「ブループリント T」同様、「ブループリント S」も『8620カーボンスチール』からの鍛造だ。

「柔らかい素材なのに、バッグ内でガチャガチャしても傷が付きにくく十分な耐久性を備えた非常に優れたカーボンスチール」とミルマン氏。「『8620』で鍛造することで打感が損なわれるとは思わないが、耐久性は大幅に向上し、ロフト角とライ角も維持することができる」。

そして、ツアープロが求める精度とロングアイアンの寛容性を両立させるために、PINGは「ブループリント S」ではかなりユニークな鍛造工程を開発する必要があった。『プレシジョンポケットフォージング』と呼ぶものだ。


プレシジョンポケットフォージング

「ブループリント S」の6番アイアンからピッチングウェッジは、昔ながらの単一素材の鍛造を採用している。しかし、3番から5番アイアンは、クラブヘッドを少し大きくするだけでなく、ツアープロが求める打ち出し角を実現するために重心を下げるべく、ちょっとした工夫が必要だった。

その解決策が、ユニークかつ独自の『プレシジョンポケットフォージング』だった。


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PINGは何段階もの工程を経て、バックキャビティに大きなポケットを鍛造することを可能にした。そのポケットには「エラストマーインサート」が充填され、ステンレススチールのカバーで覆われている。この工程により、PINGはクラブヘッドを少し大きくすることができた。

ポケット自体は10グラムの重量軽減をもたらし、その余剰重量は下部に再配分された。この重量と、新しく重いトウスクリューの組み合わせにより重心が低くなり、打ち出し角が高くなるというわけだ。

PINGのツアープレーヤーが望んだ通りに。

「鍛造アイアンは非常に小さいか、非常に大きなキャビティを持っているかのいずれかだ」とミルマン氏。「通常はどちらか一方を選択することになる。だが、これはその中間、言うなればいいとこ取りだ。ポケットから10グラムの重量を削り、「i59」と「iBlade」と同等のサイズと形状を維持するために使用している」。


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おやすみ、マイクロマックス

「i59」の主要な技術革新のひとつは、PINGの『マイクロマックス(MicroMax™)グルーヴ』構造だった。『マイクロマックス』はその名の通り、溝の側壁を急勾配にすることで、フェース面により多くの溝をより密に配置したもの。これはラフからのスピンコントロールを改善するという発想だった。

その『マイクロマックス』は確かにその役割をうまく果たした。もしかしたらうまくやりすぎたかもしれない。

確かにラフではスピン性能が向上した。しかし、摩擦が大きくなったことで、フェアウェイからのショットでは逆にスピン量が減ってしまったのだ。当然ツアープレーヤーたちはその改善を望んだ。


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「彼らに『あのさ、我々のアイアンショットの70パーセントはフェアウェイから打つ150ヤード圏内なんだから、グリーン上でスピンがかからないと困るんだよ』」と言われたとミルマン氏。「彼らはラフからのショットで起こることは受け入れられる。あらゆる状況下のショットで平均的に安定したスピンを得ることよりも、ショットの70パーセントでしっかりとスピンがかかることを望んでいるんだ」。

PINGの哲学では、小売店で販売するクラブとツアープロがプレーするクラブが同じであることを重視している。そのため、『マイクロマックス』は非常にうまく機能したにもかかわらず、「ブループリント」で採用されることはなかった。ただし、PING「i520」アイアンセットでは引き続き『マイクロマックス』を使用している。

ミルマン氏は言う。「『i530』の使用層がラフからびっくりするほど多くのショットを打っていることを示す(アーコスの)データがあるからね」。


PING「ブループリント」アイアン:組み合わせて使うために生まれた

上級者向けのアイアンセットを見れば、それらが組み合わせて使うように作られていることがわかる。この傾向は一般のプレーヤーだけでなくツアープレーヤーにも広がり始めている。

ミルマン氏は言う。「PINGのスタッフプレーヤーやほとんどのツアープロで、3番アイアンからピッチングウェッジまで全く同じアイアンをプレーする選手はほとんどいない」と。「ツアープロは毎回うまいこと組合せの調整をしているが、それは番手間のギャップが完璧であることを確認するために毎週彼らと一緒に旅するツアーレップを引き連れているからこその芸当だ」。


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しかし、我々のような一般人にそんな贅沢は許されていない。そして、ほとんどのコンボセットには、ロフトの流れを分断するような怪しげなトランジションが常に存在する。その場合、ある番手のロフトは寝かして、別の番手は立てたりすることで、ギャップそのものはうまく揃えることは可能だ。しかし、その方法ではバウンスがおかしなことになる。

そこでPINGは、「ブループリント T」と「ブループリント S」、さらに「i230」アイアンとも継ぎ目のないスムーズな流れに組み合わせることを可能にした。

「3種の精密なアイアンセットはすべて同じロフト角となっている」とミルマン氏。「我々はアーコスのデータを通じて、『i230』が当社の製品中で最も理想的なギャップを有するアイアンであることを発見した。なので、今回2つの新しい『ブループリント」セットでも長さとロフト角の流れをそのまま継承した」。

というわけで、これが新しい「ブループリント」のロフト角が初代「ブループリント」よりも1度ストロングになった理由だ。


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「これで3つのセットをすべて組み合わせて使用できるようになった」とミルマン氏。「番手間のギャップを機能させるために、ロフトを立てたり寝かしたりして調整する必要はない」。

本気のクラブオタクなら、それぞれのセットを購入して、その日のコンディションやスイングの調子に応じて組み合わせて使うことだって可能だ。馬鹿馬鹿しい話なのはわかっているけどね。

だけど、男は夢を見たいもんなんだよ。


PING「ブループリント」アイアン:まとめ

PINGが「ブループリント」の重心を少し低く、オフセットを少し強く、慣性モーメントを少し大きくすることについて話すとき、それはまさにその通りのことを意味している。

そして、より正確無比なショットを放つゴルファー向けだということも。


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アイアンラインナップの合理化と改善を図るためにPINGがおこなってきた10年以上にわたる取り組みを称賛してほしい。カーステン・ソルハイムは、常に見た目よりも機能と性能を優先させてきた。カーステンの息子アランは有名な言葉を残している。

「PINGでは、クラブの美しさではなく、クラブの性能を重視している。よい球が放たれれば、自然と見た目も美しく見えるものだ」と。

しかし、過去10年間で、PINGは機能のために必ずしも形状を犠牲にする必要はないことに気づいた。事実、今回の新しい「ブループリント」では全く犠牲にはなっていない。


◆PING「ブループリント S」と「ブループリント T」アイアン:スペックおよび価格(日本)

シャフト:

・N.S.PRO 950GH neo ¥36,300(税込)

・N.S.PRO MODUS³ TOUR 105 ¥36,300(税込)

・N.S.PRO MODUS³ TOUR 115 ¥36,300(税込)

・N.S.PRO MODUS³ TOUR 120 ¥36,300(税込)

・DG EX TOUR ISSUE¥38,500(税込)

グリップ:

・GP360 LITE TOUR VELVET ROUND(バックライン無し)

発売:2024年2月8日


<スペック、価格、発売時期>

※下記はアメリカの情報

おそらく、新しいPINGの「ブループリント」アイアンの場合、他のほとんどのアイアンに比べて純正という概念にあまり意味はないものの、トゥルーテンパーの「DG 120」は両方のアイアンの純正シャフトとなる。

「ブループリント T」にはカーボンの純正シャフトはないが、「ブループリント S」にはPING の「Alta CB ブラック」が搭載される。いずれも純正グリップはゴルフプライド「ツアーベルベット360」。いつものように、PINGは追加料金なしのシャフトラインナップを多数用意している。

どちらのセットも3番アイアンからピッチングウェッジまでが用意されており、PINGの標準ロフトオプション、パワースペックまたはレトロスペックから選択可能だ。

PING「ブループリント T」と「ブループリント S」の小売価格は、スチールは1本235ドル、カーボンは1本245ドル。本日より予約注文とカスタムフィッティングが可能。