「商品を乱発して発売サイクルが早い」とテーラーメイドを叩くのは簡単だ。以前のテーラーメイドは、クラブの名前を変える程度で同じような商品を世に送り出す常習者でもあった。
PentaやLethalのボール、あるいはPsi、RSiアイアンのことを覚えている人なんていないだろう。いや、そうでもないか…。
Lethalボールはお気に入りな感じだったし(好きなのはボールであって、名前じゃない)。
ところが、「P790」アイアンの発売から、テーラーメイドは上手くやっていると思う。
(PXGの)ボブ・パーソンズに噛み付かれたSPEEDFOAM充填剤を搭載する「P790」は絶好調で、そのボールスピードの速さ性能は他社の追随を許さず、同社アイアンとしては大きな成功を収めているのだ。
だからこそ、テーラーメイドは記録的な販売数を誇るこの「P790」の名前を引き継いだようだ。
新モデルは前作よりもクリーンな見た目。そしてトゥ部分に同社の「T」ロゴを残し興味深くも「TaylorMade」の文字を割愛している。
そしてウェイトポートをヘッド下部に配置した他、ヘッド後部のトップラインがややクリアになったことで、できるだけ前作よりも視覚的な変化を持たせた。
設計的には、特にロングアイアンでオフセットが小さく、ショートアイアンではヒールからトゥまでの長さが少しだけ短くなった。
「P790」の、売上を見るとかなり認知が広がっているようだ。そのため、幅広いゴルファーに受け入れられるだろう。
また、トゥ部分が微妙に高くなりアドレス時のルックスも良くなった。そしてソールも改良され、最近はその抜けの良さが人気となっている。
(前作と新作を)別々に持ってみると違いは分かりにくいが、並べてみるとしっかり違いを感じることができる。
それよりも変わったのはヘッドの中身で、徹底的に見直したというよりは洗練されたと言える。
明らかに改良された点は、さらなる初速アップと数ヤードの飛距離アップを実現するためにフェースを7%薄くしたことが挙げられる。
そのため、このアイアンは飛び系アイアンという位置付けだ。タングステンが15%増したことで、打ち出し角が高くなり、慣性モーメントもアップ、そしてストロングロフトも気にならなくなった。
またテーラーメイドでは、2002年からインバーテッド・コーン・テクノロジーを採用しているが、ロングアイアンではトゥ側にこれを配置するなど、番手ごとにフローにさせたのは今回が初めてで、右へのミスに対する操作性を向上させている。
「P790」アイアンにおいては、設計を一から見直す必要はなかった。
前作もSPEEDFOAMや貫通型のスピードポケットは採用されているし、軟鉄8620ボディは調整が簡単。フォージドHSスチールフェースによりボールスピードもアップする。見た目も良く、フェースの弾きも素晴らしい。
新モデルもこれらについては変わっていない。すでに「P790」アイアンを愛用してならアップグレードしたい気持ちにもなるかも知れない。
もしその気持ちがあるのなら、NEW「P790」アイアンは前作の魅力が全て詰まっていると言って良いだろう。
スペック、価格、販売時期
※上記表の用語:CLUB 番手 / LOFT ロフト角 / LIE ライ角 / OFFSET オフセット / LENGTH クラブ長 / SWING WEIGHT スイングウェイト
標準シャフトは、トゥルーテンパーのダイナミックゴールド105VSS(スチール)かUST MamiyaのRecoil 760/780 ES SmacWrap(カーボン)。グリップはゴルフプライドのTour Velvet 360が装着されている。
メーカー希望小売価格はスチールが1,400ドルでカーボンシャフトモデルだと1,600ドル。8月19日から予約開始、発売日は9月6日となっている。
「P790 UDI」
分かっていたことだと思うが、テーラーメイドは「P790 UDI」ドライビングアイアンも発売する。UDIとその他の「P790」アイアンとの違いは、インバーテッド・コーンが小さく、インパクト時にフェースがよりたわむようになっていること。
違いといえばこれくらいだ。また前作に装着されたシャフトよりやや重いプロジェクトXのHZRDUS Smoke Blackを採用。他の「P790」アイアンと異なり、ロフト角17度の#2アイアンのみのラインナップとなっている。
標準シャフトは、プロジェクトXのHZRDUS Smoke BlackのS(90グラム)とX(105グラム)。グリップはツアーベルベット360で、メーカー希望小売価格は229ドル。9月6日から発売される。
「P790 TI」アイアン
「P790」アイアンは前作と代わり映えしないように思えるが、「P790 TI」アイアンはだいぶ見た目が違う。
「P790」は設計面でPXGを動揺させたが、価格ではPXGと争う気もなかった。
しかし今回、テーラーメイドはキャロウェイやタイトリストのように、チタンとタングステンを採用することで、高価格帯クラブに参入しようとしているようだ。
チタンアイアンは決して真新しいものではない。古くはレイクックのタイタニックやトミーアーマーのTi100アイアンが頭に浮かぶが、チタンは高額で簡単に曲げたりできないため、ロフトとライの調整も難しい。
そしてスチールよりも扱いにくい。にも関わらず、テーラーメイドではチタンを「P790 TI」の礎としたいようだ。
今回採用したのは9-1-1チタンだ。非常に軽量であるため、テーラーメイドとしてはこれまで以上に多くのタングステンを活用することができる。
ロングアイアンでは、タングステンを約120グラム使用。タイトリストもCNCPTアイアンで大量のタングステンを使ったが、このアイアンはそれ以上のタングステンが採用されている。
また、タングステンは見掛けだけのためにあるのではない。これによりさらに低・深重心となり、ストロングロフトにも関わらず高打ち出しを実現する。
「P790 TI」は、「P790」アイアンよりもややヘッドが大きい。フェースは2mm高く、ブレードも2mm長い。オフセットも「P790」アイアン以上で、ソールも幅広だ。
それでもスタンダードモデルのような見た目は継承しており、程度の差はあるが同シリーズにふさわしいモデルと言えるだろう。
「P790 TI」は寛容性を追求したアイアンではあるが、「P790」のデザインに忠実であり、シャベルのような大きなヘッドのアイアンというイメージではない。“大きい”のは価格だけだ。
「P790 TI」は素晴らしい見た目をしたアイアンであり、タングステンバーでテクノロジーをうまく可視化している。
欠点は、カスタムフィッティングの重要性に気づき始めているゴルファーが増えている中で、(ライやロフトを)2度しか調整できないクラブを正当化することが難しいということ。この価格帯なら尚更そうだろう。
PXGのような高級ブランドが主要ブランドになる方が、主要ブランドが高級ブランドになることよりもよっぽど簡単だ。
テーラーメイドが、PXGが幅を効かせているフィールドで、そのブランド力を発揮できるかお手並み拝見というわけだ。
「P790 TI」をお気に入りのアイアンだと思いたいし、競合とは基本的に異なる施策を講じたことには拍手を送りたいと思うが、高価格帯市場を制するアイアンとしては役不足であるように思う。
※上記表の用語:CLUB 番手 / LOFT ロフト角 / LIE ライ角 / OFFSET オフセット / LENGTH クラブ長 / SWING WEIGHT スイングウェイト / HAND ハンド
「P790 TI」は4番からPW、AWまでがラインナップされ、シャフトは日本シャフトの950GH NEOスチールか三菱レイヨンのMMTカーボンシャフト(フレックスはSが75g、Rが65g、Aが55g)を装着。標準グリップは、ゴルフプライドのツアーベルベット360となっている。
小売価格はスチールシャフトモデルが2800ドルでカーボンシャフトモデルが3000ドル。発売日は11月8日だ。
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