キャロウェイのマーケティング担当執行役員であり、オジオの社長でもあるハリー・アーネットは、週末のツイッターで「#1 Ball in Golf™(世界No.1のゴルフボール)」と銘打つタイトリストに対し、攻撃的なコメントを投げかけた。

少なくとも、商標名の「#1 Ball in Golf™(世界No.1のゴルフボール)」というのは事実を反映していることは確かだ。

ハリー・アーネットのツイッター投稿は、ファーマーズ・インシュランス・オープンの大会期間中にタイトリストが打ち出した広告に対してのもの。彼の発言がくすぶっていた「ボール戦争」の口火となるのは間違いなさそうだ。

ツイッターの内容はこうだ。

「タイトリストの皆、調子はどう?君たちの目指す「信頼」には賛同する。ところで君たちのサーリンの2ピースボールと我々のウレタンボールを比べた広告を見た。サーリンの2ピースボールとウレタンボールを比べるのは、誤った印象を与えるし信用できないね。どうしてプロV1とクロムソフトを比べないの?比べない理由はわかるけど。」

続々と送られるツイッターの返信に注目だ。タイトリストとキャロウェイのファンからは、それぞれのブランドを支持する様々な意見が寄せられはずだ。キャロウェイのダニエル・バーガーでさえ、自社のクロムソフトを守るために議論に加わっている。

今回の争点は、タイトリストのツアーソフト、キャロウェイのクロムソフト、ブリヂストンのTour B RXS、テーラーメイドのTP5を比較した性能テストの結果で、ツアーソフトに有利な結果が公表された点だ。

先日のツアーソフトに関する記事で、アイオノマーカバーの2ピース構造ボールのパフォーマンスと、3ピース、4ピース、5ピースの多層構造のウレタンボールを比較するのは大胆な話だとお伝えした。

ハリー・アーネットは、この比較結果を使ったタイトリストの広告は「誤解を招き、信用できない」としている。タイトリストのメッセージである「信用」という言葉をあえて使って批判したと思われるが、端的に言えば「全くのデタラメだ」といったところか。

タイトリストの弁明

タイトリストは主張の根拠を示しているが、その内容は他のゴルフ広告ではまず見られないような、かなり細かい文字で書かれている。

映像で見逃した方のために、その内容をお伝えしよう。

「ドライバーの飛距離は、ボールスピード62.6m/s、打出し角12度、スピン量2,900 rpmで設定したマシンテストの結果である。タイトリストのツアーソフトの飛距離は、キャロウェイのクロムソフトより5ヤード、テイラーメイドのTP5より4ヤード、ブリヂストンのTOUR B RXSより2ヤード長い結果となった。ツアーソフトのコンプレッション※は、クロムソフトより15ポイント、TP5より5ポイント、TOUR B RXSより12ポイントも軟らかい。」

※ボールの硬さのこと。数値が大きいほど硬い。

 

これらの数値から判断すると、ツアーソフトが優れているといえる。ウレタンボールを含めた議論において、グリーン上でのスピンが比較されていないのは要注意だが、タイトリストの発表によれば、グリーン周りの性能においても他社のボールに引けを取らないと確信しているようだ。

ハリー・アーネットが疑問視しているのは、リンゴ(ウレタンのツアー系ボール)とオレンジ(ツアー系ボール以外)を同一基準で比較している点だ。

とても興味深い問題だ。そもそも2ピースのアイオノマーボールと3ピース以上の多層構造ウレタンツアーボールを比較することは合理的で、適正で信頼できるものなのだろうか。

この質問の答えは、事実より個々の見解によるところが大きい。もしMyGolfSpyがボールテストで同じ比較をしたら、私たちは猛攻を受けるに違いないし、それは当然の報いだと思う。

とはいえ、タイトリストの広告が度を越しているとは言い切れない。性能を基準に比較するべきか、構造と素材を基準にするのか、またはその両方なのか。前に述べたとおり、その答えは事実というより個々の意見による。しかし、「全く異なる2つのものを比較する」というテーマでない限り、MyGolfSpyで私個人の意見を出すことは許されない。

ボールの構造や素材にそれほど関心のないゴルファーもいる、というのがタイトリスト側の見解だ。。飛距離と打感のみを重視するなら、タイトリストの比較は合理的だといえるだろう。構造と素材は違っても、(タイトリストによれば)性能は比較可能だからだ。言うまでもなくゴルファーは、良く飛んで、ソフトで、安いボールを求めている。ツアーソフトがこれに当てははまるならば、他の要素は問題ではない。

 

アイオノマー  VS  ウレタン  ・・・どうでもいい。

2ピース  VS  3ピース以上の多層構造  ・・・どうでもいい。

 

いずれにしても・・・

タイトリストによる比較が妥当かどうかは最終的には消費者が決めることだが、私は賛同できない。

タイトリストが真剣なゴルファーを対象としたブランドとして地位を確立していることを考えれば、やはりこの比較には疑問が残る。どのブランドも成功するためには一般ゴルファー層にもアピールする必要があるが、タイトリストにとってツアーソフトは、その手段の1つなのだ。

これには戦略的な要素があるように思える。タイトリストは一般的なボールと競合他社の高価なツアーボールとの中間に位置するものを作ることによって、AVXをツアーレベルのボールの代替品として売り込みたいと考えている可能性もある。

 

ハリー・アーネットのツイッターに関しては・・・

ハリー・アーネットのツイッターのフォロワーは、彼が時折見せる無鉄砲でせっかちで、はた迷惑な乱暴者の一面を知っている。

彼は競合他社やフォロワー、MyGolfSpyのスタッフとも言い争ったことがあるのだ。ほとんどの場合は深く考えない衝動的な行動だろうが、今回は計画的だったと思う。一語一句すべてを計画していたかは疑問だが、遅かれ早かれ一撃のチャンスを狙っていたのだ。ハリーらしい行動だ。

いつになく上出来だったともいえる。ツイッター上で会話したことで、さらにタイムラインが加速したのだろう。

最近のPGAマーチャンダイズショーでは、キャロウェイがボール市場で何か仕掛けるつもりではないかとしきりにささやかれていたが、うわさどおりとなった。

キャロウェイは、ボール部門で明確なNo.2の地位を定着させている。クロムソフトで一定のシェアを確立しており、一部のゴルファー層から支持を得ている。キャロウェイのCEOが好んで言及するように、勢いがある。

 

グッドタイミング

キャロウェイが前進する中、タイトリストは色々な問題を抱えている。消費者へのダイレクト広告(白い箱に入ったテストボールの送付と研究開発プロセスへの参加)を最低限に切り詰めている。コストコ社との訴訟問題もある。クロムソフトの存在により、タイトリストは守りの姿勢をとり、ソフトな打感を念頭においた設計を余儀なくされている。

タイトリストはツアーソフトによってキャロウェイへの巻き返しのチャンスを狙っているし、AVXの発売も予定している。しかしキャロウェイは、グラフェンを注入した画期的な新素材を採用しており(飛距離には個人差があるが)、2018年の見通しは明るい。

両社ともに確固たる方針があるに違いないが、注目する点はまだある。

クロムソフトの5ドルの値上げがどう影響するか、現時点では予測できない。消費者が性能重視でクロムソフトを支持しているならば、勢いはまだ続くだろう。だがソフトな打感と低価格が理由ならば、よりソフトで低価格のツアーソフトにも反撃のチャンスはある。

勢力は五分五分というところだろうか。クロムソフトはより良いゴルフボールに進化し続けているが、少しずつ硬めになってきており、しかも価格が上昇している。最初に消費者を引き寄せた魅力からは少し遠ざかっている。この点がキャロウェイにとってダメージとなる可能性があるが、全く影響がないかもしれない。それゆえ、私は五分五分とみている。

 

ボール戦争、勃発

ハリー・アーネットのツイッターとその後の議論をどうみるかはさておき、キャロウェイはタイトリストをNo.1の座から引きずり下ろすことに真剣に取り組み始めたと私は確信している。これが成功するとしても、一朝一夕には実現しないだろう。今年はもちろん、来年も無理かもしれない。

もしハリー・アーネットの最初のツイッター投稿がその兆候だとすれば、間違いなく真剣なボール戦争の始まりだ。今後の展開が楽しみである。

ちなみにMyGolfSpyはハリー・アーネットとタイトリストに取材を求めたが、両者はコメントを拒否している。