「変化以外に永遠のものはない」。ギリシャの哲学者・ヘラクレイトス

「時が僕を変化させることはあっても、それを追いかけられない」。英国のロッカー、デヴィッド・ボウイ


本間ゴルフには北米市場で一貫していることがある。それは「変化」だ。

過去3年、本間ゴルフは、奇妙なことに向き合い、デヴィッド・ボウイやヘラクレイトスが誇りに感じられるように、戦略や経営の変化を繰り返してきたように見える。

2018年以降、本間ゴルフのトップは、「戦略アドバイザー」のマーク・キング氏からテーラーメイド役員のジョン・カワジャ氏、そして元タイトリスト役員のクリス・マクギンリー氏と、「パワーレンジャー(日本のスーパー戦隊物を元にしたハリウッド映画)」よりも多くの回数、「変身」を遂げてきた。そして今年の夏、同社は元ブリヂストンゴルフの幹部であるジャニアン・ラニング氏を北米部門の新たなトップに任命した。

本間ゴルフの市場開拓の戦略も常に変化し続けている。小売一辺倒から、より小規模で移動式のフィッティングバンを使ったアプローチに進化。ラニング氏のリーダーシップの元、さらなる変化が期待されている。


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本間ゴルフ:独特な魅力

「本間」は苗字だ。1959年に本間敬啓氏と裕朗氏の兄弟が横浜で鶴見ゴルフセンターに開業したのが始まりだ。練習場と工房を併設したセンターには、「ゴルフクラブ作りは芸術である」という兄弟の確固たる信念が込められていた。1963年になると、兄弟は本間ブランド初のクラブを発表。1973年には、初のカーボンシャフトを装着したウッドをリリースし、その後、アパレルも発売した。

80年代になると、本間ゴルフは東京から北に約480キロ離れた日本海に面した「酒田」に店舗を構え、すぐに同市最大の会社に成長した。ちなみにリー・トレビノは1984年の全米プロで最後のメジャー制覇を果たしたが、その時使っていたのは本間の「パーシモン」だった。


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日本のゴルフ業界の大半がそうであったように、本間ゴルフも80年代から90年代前半にかけて隆盛を極めた。日本が景気低迷に陥ったのはこの頃。本間ゴルフはなんとか持ち堪えていたが、2005年には「破産申請」することになり、2010年には中国の「マーライオン・ホールディングス」が本間ゴルフを買収して、復興への道を歩むことになった。

そして昨年、多くの企業同様、本間ゴルフの業績も新型コロナウイルス感染拡大が直撃した。同社の会計年度は3月31日だが、2020年度は2億400万ドルと売上こそ落としたものの、1,600万ドルの利益を計上し、600万ドルの赤字だった前期から大きく業績を改善されている。


本間ゴルフと北米市場:変化の連続

2015年以降の北米市場における本間ゴルフは方向性が定まっていない。

「(それは)正しい表現だと思う」と語るのは、北米本間ゴルフのセールスディレクターであるライアン・ソウヤー氏。「私は入社して2年半になるが、確かにいくつか異なる道を選んできている。創造性を発揮し、ブランドが成功を収めるために方法を見つけようとしているのだ」。

我々の過去の記事を振り返ってみると、日本のメーカーは「北米市場で成功」しようとしている記事が次々と出てくる。それは、本間ゴルフにとって「蛇と梯子(欧米で古くから親しまれているボードゲーム)」のようなもの。同社ではマーク・キング氏が戦略アドバイザーとして2018年に入社し、本間ゴルフの劉建国会長の直属となったが、それから一年も経たずに、キング氏は不可解にもタコベルのCEOに就任している。


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次に登場したのはカワジャ氏で、同社は確かに良い方向に向かっているように見えた。同社はジャスティン・ローズと大型契約を締結し、「カールスバッド」に新たに本社を設立。北米向けの製品を生み出すため、米国拠点の開発チームを置いた。また、本間ゴルフは全ての商品ラインナップを直接ゴルファーに体験して購入してもらうために、「移動式のフィッティングバン」も全国に配置した。

本間ゴルフにとっては全てが順調だったのだ。

というのも、ローズとの契約はわずか1年を経ったところで破綻。その後にはパンデミックに見舞われる事態に。カワジャ氏も去り、後任のマクギンリー氏も退社、そして米国拠点の開発チームも解散してしまったのだ。


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「米国チームは確かに縮小している」と言うのはソウヤー氏。「現在は部分的にアジアにシフトしている。彼らのお陰でより良い予測もできるようになり、どんな製品が売れるのかを理解することができたので、収益を出せる企業にもなった」。

つまり、本間ゴルフは新たな道を歩んでいるということ。そして、その方向性は明らかに「ベレス」に重点を置いたものになっている。





主役はベレス

ソウヤー氏は「ベレス」について「北米における弊社のビジネスの半分以上を占めている。我々は、特定の価格帯の市場を独占しているようなもので、当分はそこにエネルギーを注ぐことになる」と語る。

「ベレス」は、ヘッドスピードが低〜中程度までの富裕層に向けてデザインされた軽量の高級モデルだ。ドライバーの価格は「2スター」で850ドルが最低で、「5スター」だと4,500ドルに設定されている。


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「PXGやゼクシオは価格的に誰にでも合うものではないが、『ベレス』こそ更に限定される。あなたがヘッドスピードが速くて一桁ハンディなら、7万ドルのセットを創ったところで、どちらにしてもあなた向けのクラブではないので気分を害することはないだろう」とソウヤー氏はコメントしている。

では「ベレス」は誰が使うのか?もし、あなたが持っている車がマセラティやアストン・マーティン、あるいはランボルギーニで、ヘッドスピードが40.2m/s以下でお金持ちなら、「ベレス」はあなた向けと言えるだろう。

「価格が問題で気分を害すのも分かるが、結局のところ誰にでも合うというわけではない。それはそれで良いのだ」とソウヤー氏は割り切っている。

「べレス」は、ゴルファーが欲しいと思う24金の純度や超ハイテクのシャフト素材に応じて価格が異なる。「ベレス」では皮肉にも「2スター」はエントリーレベル(今年の『Most Wanted初級者向けアイアンテスト』では3位)とされ、「3スター」「4スター」、そして「5スター」までラインナップがある。


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「『2スター』はメルセデスのAクラスに例えられるかもしれない」とソウヤー氏。「CクラスやEクラスと比較できるものもあれば、『5スター』のベレスはメルセデスのマイバッハのようなものだ」。

そんな「ベレス」は「2スター」のセットが6,000ドル強で、「5スター」になると前述の通り7万ドルとなっている。


ん?何だって?

そう、ゴルフクラブのセットが7万ドルだ。この金額だと明らかにゴルフの域を超えている。

「誰がゴルフクラブのセットに7万ドルも払うんだよ!」と叫ぼうと思っているなら、やめた方が良い。読者諸君、大きくはないが市場はあるのだ。

ソウヤー氏は次のように話す。「『5スター』クラスを年間20セット販売できれば十分だが、この国の規模を考えると、このモデルでプレーしたい人は20名くらいだろう」。


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北米市場の大きさを考えれば、その数が2倍、3倍になることは容易に想像できる。

どうしてそうなるのか?少し計算してみれば分かるだろう。7万ドルの「5スター」が20セットで140万ドル、これが60セットなら420万ドルだ。本間ゴルフが「T//World GS」や「TR20」アイアンで同じ利益を得るには、どれだけ売れば良いか分かるだろうか?答えは、これまで以上に売らなければならないということだ。

もう少し数字の話をしようか?本間ゴルフの主力ウェッジ、アイアン、ドライバーは、MyGolfSpyの『Most Wantedテスト』で全て高い評価を得ているが、同社は未だに追いかける立場であることは理解している。

「大手メーカーには38人から65人の営業マンがいる」とソウヤー氏。「我々の営業マンは10名だ。だからそれほど多くの顧客と接することはできない。また率直に言って、多くのショップは聞いたことも見たこともない新しいブランドを扱いたいとは思わないもの。みんながネットで商品を調べているわけではないからね」。

3月が期末となっている本間ゴルフの直近の年次報告によると、北米での売上は820万ドルで、コロナ禍前の前期売上は1,100万ドル強。そして本間ゴルフの北米での売上は、全体の4%にしか過ぎない。


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本間ゴルフのフィッティングバン

本間ゴルフの革新的な取り組みの一つが、全国展開している移動式のフィッティングバンだった。新型コロナウイルス感染症が蔓延する数ヶ月前、本間ゴルフは完全装備のフィッティングバンを14台投入する予定で、フィッティングをゴルファーに届けるつもりだったのだ。

「他社と同じく、我々もパンデミックに対応しなければならなくなった」とソウヤー氏。「ゴルフコース以外の店舗、戦略的重要店、ブランドにとらわれないフィッターたちとより緊密に連携する必要に迫られた」。

本間ゴルフのバンには、マスターフィッターであり営業マンでもある、ソウヤー氏曰く「新世代の営業マン」が配置されている。


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「ニューヨークとニュージャージーには優秀な人材がいる。地図で確かめてみると、沿岸部は上手くいっているようだが、内陸部ではあまり成功しているとはいえないと思う」とソウヤー氏。

本間ゴルフは現在、フィッティングバン8台とトレーラー2台を展開している。加えて本間ゴルフの年次報告書によると、同社は直販モデルにもさらに力をいれるようだ。また報告書には、北米の83店舗で本間ゴルフの製品が販売されているという記載もある。


ローズはローズ、本間ゴルフは本間ゴルフ

ジャスティン・ローズの話を抜きにして本間ゴルフを語ることはできない。本間ゴルフはローズと大型契約を結び、ローズ自身は製品開発に大きな影響を与えた。そしてローズは本間ゴルフのクラブを手にしてから2戦目で優勝。ところが一年後、全てが崩れ去った。

「確かにマイナスの報道もされた」とソウヤー氏。「しかし、現在の状況と当時の方向性ということを考えれば、我々にとって大きなダメージではなかったと思う。我々のアイアンの販売量と以前と変わらない。だから、当時の出来事にはそこまで影響されていないよ」。

そして、ゴルファーの中には、どんなツアープロがどんなクラブを使っているのかということに影響されないという者もいるが、それと同じくらい、ツアープロの使用をクラブパフォーマンスの検証にしているゴルファーもいる。ツアーでの露出がない本間ゴルフは、一人一人のゴルファーと向き合う昔ながらの方法で対応しなければならない。


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「我々の製品を試した人たちは、誰しもが素晴らしい製品だと言ってくれる」とソウヤー氏。「ゴルファーであるなら、我々のクラブを試して素晴らしい製品だと思わないはずがない。問題は、誰もが素晴らしい製品を生み出す中で、どのようにストーリーを伝えるかにある」。

そして、その点において、追いかける中途半端な立場という難題が横たわる。「ビッグ5」が市場を圧倒しているため、どんなに優れたものであっても、そうした商品に向けた棚のスペースと他メーカーに対する余裕は極わずかということだ。

「我々は製品メーカーであって、マーケティング会社ではない」とソウヤー氏。「他者のようにマーケティングの予算があれば良いが、現実はそうではない。しかし我々の製品はどうか?今後も良い製品を創り続けるだろう。今までと変わらないさ」。


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中国との繋がり

本間ゴルフの伝統は日本のものだが、現在は中国人が所有している。本間ゴルフ製品の多くは日本で手作りされているが、本社は中国にあるのだ。事前のデザインは全て「酒田工場」で行われ、「研磨」「仕上げ」、そして「ベレス」の場合は「金メッキ」も酒田工場で実施される。

本間ゴルフの高性能シャフト「Vizard(ヴィザード)」、さらにそれ以上にハイエンドな「ベレス」シャフトも酒田で手巻きされているのだ。

本間ゴルフが鍛造を日本で行なっていないことから、本間ゴルフの日本の伝統を否定するような意見もある。しかし実際のところ、これは2021年のビジネスのことを言っているし、基本的にクラブがカールスバッドでデザインされ中国で製造されていることと変わりはない。


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「生産は中国で行われているが、製品デザインとその準備をする者は日本にいる」とソウヤー氏。「他も大半は同様にしていると思うが、日本企業は少し違った見方をされる傾向がある」。


2022年の本間ゴルフゴルフはどこに向かうのか?

「この16ヶ月は厳しいもので、まだ危機を脱した訳ではない」と認めているのはソウヤー氏だ。「我々のクラブをゴルファーの手に届けるために、まだしなければならないことがある。我々のチームは日々、その仕事をしているし、今日、明日、明後日もそれは変わらない」。

追いかける立場のブランドの誰と話しても、これが共通の気持ちとなっている。そして、変わり続ける戦略とリーダーの入れ替わりにも関わらず、本間ゴルフは自分たちの状況をよく理解しているのだ。


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「誰が会社を経営しようと、どんな戦略だろうと、商品に違いはない」とソウヤー氏はキッパリ。「本間ゴルフは製品メーカーであり、本間ゴルフの米国でのビジネスを誰がマネージメントしようが、我々のクラフトマンたちはこれからも素晴らしい商品を創出し続けるはずだ」。

ゴルフ界を支配するのは「ビッグ5」で、それに驚くこともない。そして、そうした事実により本間ゴルフやスリクソン、ウィルソン・スタッフ、直販メーカーのようなブランドには、2つの課題が浮上している。

まず一つ目は、自分たちの商品をゴルファーに試してもらうこと。そして二つ目が、各ブランドが経験していることをゴルファーに信頼してもらうことだ。しかし、弾道測定器の数値では小さなブランドの方が良い場合もあるが、「ビッグ5」が今でもゴルファーの安全な選択肢となっている。


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「もしゴルファーが昔から人気が高い商品を試したいと思うなら、そうしたって損はない。実際のところ、本間ゴルフはブランドとしては大きいが、そうではないのは北米だけだ。我々にとっての成功とは、誰かが我々の製品について友人に伝え、その製品を試し、そして好きになってもらうことだ」とソウヤー氏。

「ゴルファーは分かっている。あなたもクラブを握っただけで、分かるはずだ」。