キャロウェイのクラブデザイナーとして約30年にわたり活躍してきた名匠ロジャー・クリーブランドが、「クリーブランドゴルフ」に戻ってくる。


設計図とクラブを前に、眼鏡越しにこちらを見つめるクラブデザイナー。知性と経験がにじむ表情

同社は、1979年にクリーブランド自身が創業したブランド「クリーブランドゴルフ」に、彼が「創業者兼アドバイザー」という肩書きで復帰することを正式に発表した。

「ロジャーを再び迎え入れられることを心から嬉しく思っています」と語るのは、クリーブランドゴルフのマーケティング担当副社長クリス・カーチャー氏。「ブランドの歴史に深く根ざした存在である彼の復帰は、単なる再会ではなく、ゴルフ界で最も象徴的な人物のひとりと再び力を合わせられる特別な瞬間です。」

一方、ロジャー・クリーブランド本人もプレスリリースでこう語っている。


池のほとりでゴルフ談義を交わす年配ゴルファーと若手プロゴルファー。真剣な眼差しが交差する

「クリーブランドゴルフに戻ってこられたことは、自分にとって特別な瞬間です。ずっと心の中にあり続けたブランドであり、こうして再び、その革新とパフォーマンスの歴史に関わることができるのをとても楽しみにしています。」

同社によると、クリーブランドは今後、PGAツアーの契約選手や開発チームと連携しながら新製品やデザインに対するアイデアの提供、アドバイスを行っていくという。


ロジャー・クリーブランドとクリーブランドゴルフの知られざるストーリー

最近ゴルフを始めた人にとっては意外に思えるかもしれないが、「クリーブランドゴルフ」はオハイオ州の「クリーブランド(地名)」とは何の関係もない。

ブランドの創業者であるロジャー・クリーブランドは、1979年に「Cleveland Classics Golf Company」として会社を設立。当初は、クラシックパターや名器の復刻モデルを手掛けていた。最初に手掛けたのは、ボビー・ジョーンズ(※マスターズの創設者のひとり)の伝説的な「Calamity Jane(カラミティ・ジェーン)」パターの復刻版だったという。

その後、パーシモンのウッドやアイアン、ウェッジへとラインナップを広げ、社名も「Roger Cleveland Golf Company」へと変更。やがて「クリーブランドゴルフ」として確固たるブランドを築いていった。


手に持たれたクリーブランドのウェッジ3本。トゥに刻まれたロゴとモデル名が印象的

1988年、名器「クリーブランド588」ウェッジを発売し、一躍その名をゴルフ界に轟かせる。

この「588」とその後継モデルは、PGAツアーで400勝以上、うち33のメジャータイトルを獲得するという快挙を成し遂げることになる。

しかし1990年、ロジャー・クリーブランドは自身の会社をフランスのスキーメーカー、ロシニョールへ売却。

そのわずか5年後の1995年、彼はブランドを離れることになる。後年のインタビューでは、「事実上、追い出された」と語っている。

その後、彼はキャロウェイに加わり、チーフクラブデザイナーとして長年にわたり活躍。キャロウェイがフォージドウェッジ市場に本格参入するきっかけを作った人物でもある。


一時は法廷で争う間柄に

2013年、キャロウェイとクリーブランドゴルフは法廷で対立することとなった。その年、クリーブランドゴルフはキャロウェイの「Mack Daddy 2」ウェッジに対して、商標権の侵害で訴訟を起こした。

問題となったのは、ウェッジのバックフェースに「Designed by Roger Cleveland(ロジャー・クリーブランド設計)」という刻印があった点だ。

なお、クリーブランドゴルフは、現在も正式名称を「Roger Cleveland Golf Company」として登録している。


ゴルフクラブを手に図面と向き合うベテランクラフトマン。周囲にはゴルフの歴史を感じさせる額縁が並ぶ

クリーブランド氏は、昨年までおよそ30年にわたりキャロウェイに在籍していた。

2024年3月には南カリフォルニア・ゴルフ殿堂(SoCal Golf Hall of Fame)入りを果たしており、奇しくも同年の殿堂入りメンバーにはイリー・キャロウェイ氏(※キャロウェイゴルフの創業者)の名前もあった。


この復帰は、クリーブランドゴルフにとって何を意味するのか?

約30年の時を経て、自ら創業したブランドへと戻ってきたロジャー・クリーブランド氏。その復帰劇は、まさに感慨深いものがある。

ただし、「創業者兼アドバイザー」という肩書きが実際にどれほどの関与を意味するのか、今後の動向に注目が集まる。

とはいえ、クラブデザインの世界におけるクリーブランド氏の功績は、誰もが認めるレジェンド級のもの。

彼の豊富な経験と独自の視点が、今後のクリーブランドゴルフの製品づくりに大きなインパクトをもたらすのは間違いない。


ゴルフコースで握手を交わすシニアのゴルフレジェンドと現役プロゴルファー

2025年のクリーブランドゴルフは、少し独特な立ち位置にある。

スリクソン、クリーブランド、ゼクシオによる三本柱の一角として存在しながらも、市場全体では“ビッグ5”に次ぐセカンドグループのOEM(クラブメーカー)と見なされている。

この10年で、クリーブランドはアイアン、メタルウッド、パターの分野では「スコア改善型(初・中級者)向けブランド」としての路線を強めてきた。

その一方で、ウェッジに関しては今なお「プレミアムモデル」としての立場を維持しようとしており、この両立は極めて繊細なバランスの上に成り立っている。

ロジャー・クリーブランド氏の“ファミリー”への復帰が、ブランド全体の勢いを劇的に変えるかといえば、正直なところ可能性は高くない。

とはいえ、彼のような人物が加わることは、それだけで大きな価値がある。

長年にわたって積み重ねてきた知識と経験、そしてデザインに対する鋭い感性は、最終的な製品のクオリティに確実に良い影響を与えるだろう。


木陰の下でウェッジを手に穏やかな表情を浮かべるゴルフレジェンド

とはいえ、たまにはこういう“心温まるストーリー”があっても悪くない。

あとは、ロジャー・クリーブランドの“第二章”がどんなクラブで幕を開けるのかを楽しみに待つだけだ。