「日本のゴルフメーカーはどこに行ってしまったのか?」。数ヶ月前、こんな疑問を投げかけた。

その答えには、北米中心の視点が加味されている。ヨネックス、ヤマハ、VEGA(ベガ)、フォーティーン、オノフ、PRGR(プロギア)、そして本間ゴルフといったブランドは、アメリカ市場からほぼ消えてしまったが、かといって完全に無くなったわけではない。

とはいえ、彼らの未来は、良く見積もったとしても見通しは暗そうだ…。


つまり可能性があるってことか?

確かに、まだ可能性はあるかもしれない。しかし、そのためには大切なポイントを2つ抑えておく必要がある。

まずは、日本国内市場の典型的な消費者について考えること。次に、この10年で世界のゴルフ用品市場がどのように変化したのか、そしてそれが日本メーカーにとって今後どんな意味を持つのか評価する必要がある。


日本国内市場の消費者

日本の国内メーカーがターゲットにしている購入層は、2022年になっても2021年と一様に変化したわけではない。しかし、「高価格」を貫き続けるだけの説得力のある理由は、どんどん減ってきている。言い換えると、余剰資金をかけることを正当化する客観的な理由がなくなってきているということだ。

かつて日本のゴルフクラブは、高性能・高品質において業界トップに君臨していた。日本の技術力は他国ブランドを圧倒していた。そしてどのような尺度だろうが、その定義はともかくとしても、彼らの製品が優れていたことは間違いなかった。

故に高価格クラブを買う余裕があるゴルファーは、素材、デザイン、スペックの公差、仕上げという点で優れたクラブの恩恵を受けていた。そこには、高級品が「珍しくて特別な存在である(だった)」という要素も多分に含まれている。エゴなのか、虚栄心なのか。今でもそれが売りになっている。


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しかし、今では世界もそれに追いついた。かつて日本が先行していた“レース”は、今じゃ良く言っても“つばぜり合い”という感じ。

悪く言えば、優れた職人技と細部へのこだわりは、ごく一部の上級者にしか合わないように設計されていたアイアンとウェッジのカテゴリーに特化することでかろうじてその存在意義を保っている。

本当に悲しくなってしまうが、現在における日本のゴルフクラブの唯一で真の差別要因は、ゴルファーが、知られていない“レア“なブランドの代弁者になれるってことくらいだろう。

言わば大手シューズ量販店のセールコーナーに”レッドソール”でおなじみの高級靴「ルブタン」が陳列されているようなもので、差別化要因としては大した違いじゃなくなっているってことだ。

誤解してほしくないのは、これは日本のゴルフクラブが後退したのではないということ。むしろ、世界が進歩し続けているのだ。日本メーカーの素材や製造工程、公差が劣化したということでもない。実際優れていることに違いはない。しかし、これらのことが日本メーカー以外にも当てはまるようになってきたということだ。


ミウラの特殊な例

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ミウラは、藤本技工やセブンのようなブランドとは違う。またミズノの北米支社のようなブランドでもない。ミウラはある意味、元からある日本メーカーと現在の日本メーカーとの架け橋と言えるかも知れない。

PXGが誕生する前(これが重要な理由は後程)まで、ミウラは最も著名で熱望された日本のクラブメーカーの一つだった。また、非常に高額(同じ日本ブランドのミズノやテーラーメイド、タイトリストよりも2、3倍)でもあった。

(余談になるが、ミウラ「CB-57」は、私にとっていまだに上級者向けキャビティアイアンの頂点にいる)

そして2017年になり、億万長者のハワード・ミルスタイン氏が、北米と海外(基本的に日本以外)におけるミウラの販売権を獲得した。

決してミウラの用品を大量生産することが役割ではなかったが、この4年間でミウラは製造している全てのアイアン、ウェッジ、パターを販売する一方で、大きな成長を遂げることに成功した。さらに、値上げしても在庫を全て完売できそうな状況にあった。

一方、ミルスタイン氏がミウラに投資する前年にPXGがゴルフ用品業界に参入すると、業界は右往左往。PXGの特徴であるウェイトビスと派手なテレビやラジオのCMを使って、PXGは“高額”の定義を変えた。だってPXG以前は一本300ドル以上の主力アイアンなど考えられなかったんだから。

今でもその手のアイアンは、高い部類に入るが、それは「イエティ」のクーラーボックスや「Hydro Flask(ハイドロフラスク)」のステンレスボトルが高いのと同じこと。結局のところ、PXGはこれまで手の届かなかった価格帯の標準化に一役買ったと言える。

現在のPXGは、お手頃価格の新シリーズを加え、通常商品を定期的に割引しており、設立当初のような高級ブランドとは言えない。しかし、PXGはアイアンセットに4,000ドル(約52万)もかけることに躊躇しないゴルファー層を発掘し、そして彼らはそんなPXGを歓迎した。

ミウラは、グローバルな流通戦略を確立しネット販売を仕掛けることでこの需要増をフルに生かしているが、奇妙なのは、その大きな要因がPXGの誕生と成功にあるってことだ。なんて時代なんだよ。


日本国内市場の変化

日本のゴルフクラブ市場は今でも健在とはいえ縮小している。そしてそれはもはや性能ではなく嗜好が中心の世界だ。性能を測定するためのテクノロジーも10年前とは違っており、パフォーマンスは推測するのではなく、フォーサイトの「GCクワッド」のようなデバイスで正確に計測できるようになっている。

「ラジオスターの悲劇」なんて歌があったが、弾道測定器も結局のところ、小さな日本メーカーに対して同様の影響を与えているのかも知れないってことだ。

「ラジオスターの悲劇」がMTVで初めて放送されたミュージックビデオだってのは皮肉なトリビアだよね。

ある製品を“より良いものにすること”に長けているのが日本の産業界だ。しかし、イノベーションの拠り所というわけじゃない。

そんな近代化と変化に対する消極性が消費者をイラつかせ、最終的に日本が後塵を拝する原因となった。例えば、自動車メーカーのトヨタ。消費者はトヨタを信頼できるし、確実だし、一貫性があるということで称賛している。

ちなみに自分の2001年の「4Runner」は30万マイル以上を走った。ところが、革新性と最先端という点では、疑問符がつく。トヨタの381馬力の5.7 V8エンジンは、2007年なら衝撃的だったが、パワートレーンを改良したのは、それから約10半近く経ってからだった。


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デザイン面で言うと、日本メーカーのクラブは完璧に見えて流行るように作られている。早い話が、美しい。でも、技術的に最高の機能を発揮させるかを追求するソフト技術が駆使されるようになればなるほど、日本は競争力を失っている。

こうしたイノベーションは、形状やソール幅、トップライン、ブレード長、そしてオフセットのような主観的(感覚的)な要素を消費者がより気にする「マッスルバック」や「小ぶりなキャビティバックアイアン」といったカテゴリーには、あんまり関係のないのだ。

というか、日本はタイトリスト、キャロウェイ、テーラーメイド、PING、コブラ、そしてミズノのように、先進素材やデザインに投資していない。もっと良くわからないのは、日本メーカーには世界に追いつこうという意欲や計画があるのかってこと。私のカンでは、多分ないのだろう。

一つ良い例がある。この10年を振り返って、特に「上級者向け飛び系」と「中級者向け」アイアンのテクノロジーを考えて欲しい。

大手メーカーのこのカテゴリーにおける進化はめざましく、日本のメーカーはミズノ「MP225」やタイトリスト「T200」に匹敵するような製品を生み出すことはもう二度とないのでは?と思ってしまうほどのところまで進化させてしまったのだ。


私見

私は日本メーカーのクラブが大好きだし、独特の味わいと奥深さがあるデザインを高く評価している。もっと言うと、スキルさえあれば、ミズノ、ミウラ、プロトコンセプトのアイアンを使わないと気が済まなかっただろう。

使いこなせるかは別として、オフセットが小さくてトップラインが薄く、トゥが丸いクリーンなキャビティバックの魅力を捨て去ることもできない。

しかし、日本の小規模ブランドのゴルフクラブを取り巻くビジネス文化は、最近のビジネスの世界と相容れないのではないかという私の懸念も高まっている。

というのも、彼らの市場は既に限定的で、今や圧倒的なテクノロジーが施されたクラブが、(一層広がりを見せるネット販売を含めた)小売チャネルを通じて低価格で手に入るようになっているからだ。

私はそれでも、ミウラの「MC-502」をミズノ「MP64」とプロトコンセプト「C01」と打ち比べたくて仕方がない。不治の病に掛かっているってことなのかな。